2. 根拠の乏しい定説を疑う
経営者はよく、自社製品の価格を変えられない理由として、「競合他社より高くするわけにはいかない」など、根拠の乏しい定説をあれこれ唱えがちだ。
このような定説を鵜呑みにせず、「これは本当なのか」と自問することが非常に重要である。
スプリングスティーンの場合は、「労働者階級の友だと思われているなら、公平な価格を設定すべきだ」という定説が広く行き渡っている可能性がある。しかし、それは本当に正しいのだろうか。ほかの革新的な著名人は、そのように感じていないようだ。
元大統領夫人であるミシェル・オバマが2019年に行ったブックツアーの価格は4200ドルに達しており、シアトルで開かれた「クリントン夫妻との夕べ」の4列目の席は829ドルだった。
スプリングスティーンの今回のツアーに対する関心は非常に高く、フィラデルフィアのあるプロモーターは、「フィラデルフィアの音楽史上、最大のチケット需要になる」と語った。スプリングスティーンは、すべての座席(ましてや最高の座席)を、市場が支払ってもよいと考えている金額を大幅に下回る価格で売る必要があるのか。私はそうは思わない。
それにどのコンサートでも、かなりの枚数のチケットが、ダフ屋と「余分に」購入したファンによって、転売され、利益が上げられていることを思い出してほしい。アーティストが価格を上げた時、彼らが得る利益の多くは、さもなければダフ屋の懐に入っていたものなのだ。
2002年10月にスプリングスティーンのコンサートに来たファンを対象に行われた調査では、チケットの28.1%が転売され、平均で240%もの価格の上乗せが行われていることがわかった。したがって、定説に正しく疑問を呈することは、理にかなっている。
3. 既存顧客に低価格を適用する必要はない
スプリングスティーンのコンサートチケットに関連する不満の一つが、1970年代から自腹でコンサートに足を運んできた長年のファンを搾取しているというものだ。長年の顧客を大切にするのは当然だ。しかし、彼らも慈善目的で購入したのではない。自分の利益のために(自分が楽しむために)購入したのであり、一生にわたって割引価格を適用してもらう資格があるわけではない。
むしろこれまでのツアーで、ファンは極めて「お得」な経験をしてきた。スプリングスティーンが、すべてのチケットを市場価格をはるかに下回る金額で提供することを望んだためだ。筆者はスプリングスティーンのコンサートを約40回観ており、
だが、コンサートチケットよりも頻繁に購入される商品やサービスを提供する企業が大幅な値上げをする際は、できれば既存顧客に対してはゆっくり適用することをすすめたい。すぐさま価格を引き上げるのではなく、VIPとして扱い、より長い時間をかけてゆるやかに値上げを実施することを伝えるとよい。そうすれば、顧客が急な値上がりに衝撃を受けるのを防ぐとともに、感謝の気持ちを伝えることができる。
4.低価格はプロダクトの価値を下げる
スプリングスティーンはこれまで、市場価格を下回る金額でチケットを販売してきたため、ファンがそれを期待するようになってしまった。これは割引価格を長期間適用する危険性を示している。
筆者はよくスタートアップ企業から、初期の顧客には大幅な値引きをすべきかと聞かれることがある。彼らにしてみれば、顧客がつくだけでハッピーなのだ。しかし、筆者は慎重な適用を勧めている。売上げを確保するための値引きは、プロダクトの価値を毀損することにつながり、いざ利益を確保しようとする時、問題になる可能性がある。