5.高価格ゆえに高まる期待に注意せよ
スプリングスティーンは、2017年のブロードウェイ公演において最上級席のチケットを850ドルに設定した際にも、今回と同じような批判を浴びた。この公演は、その価格を正当化するような素晴らしい評価を得た(トニー賞も受賞した)。そうは言っても、来年のツアーに5000ドルを支払った人は、それに見合った価値を期待するだろう。
スプリングスティーンはコンサートの最初に新曲を大量に演奏することが多いが、これは1970年代や1980年代のヒット曲を目当てに来たファンには不満かもしれない。また、彼らはその不満をソーシャルメディアで発信する可能性が高い。コンサートの話題性が低かったとしても、価格と価値を連動させる利点は、その両方を簡単に変えられる点にある。
スプリングスティーンの2023年ツアーは、8月に入るとスタジアムツアーになると噂されている。春のツアーでファンの期待に応えられなければ、スタジアムのチケットは下がり、ベストヒットのオンパレードになるかもしれない。
6.市場調査は必ずしも現実を反映していない
最適価格を見つけるに当たり、価格感度メーター(ファン・ウェステンドルプモデル)などの分析方法は、調査参加者に「いくらなら払うか」を尋ねる。筆者は、来年のスプリングスティーンのコンサートに行くために、チケット1枚に1000ドル以上も払った人を何人か知っている。この金額は、彼らの事前の予想を大きく超えているため、たとえ調査を受けてもその金額を明かすことはないだろう。
少なくとも、このような熱狂的な顧客は「いくらなら払うか」という質問に対し、自分が本当に支払おうと考えている金額よりも過少に申告する。これは、市場調査が必ずしも現実を反映しないことを示す一例である。
7. 価格に見合った価値を提供する
スプリングスティーンは最近、全楽曲の原盤権と音楽出版権を推定5億5000万ドルでソニー・ミュージックに売却した。これを受けて、彼は十分に裕福なのだから、コンサートチケットに法外な価格をつけるべきではないと言う人もいる。
同じような考えから、筆者のクライアントの多くは、プロダクトの価値に見合った価格をつけることを恐れている。利益が増えれば、それが年次報告書に示されて顧客に知られてしまう。そうなれば、顧客が怒って値下げを迫るのでは、と恐れているのだ。
そんな時こそ自信を持って、「(同じクオリティーで)さらに安い物があるなら、そちらを買ったらどうですか」と胸を張るべきである。たとえ上場企業で、健全な利益を上げていると知られている場合でも、顧客はプロダクトの価値に見合った金額を払うはずだ。
顧客が値上げに快く同意して、何の摩擦も生まれないケースはめったにない。不満が噴出し、購入をやめる人が出てくることは避けられない。そのような時、つくり手が最も重視すべきなのは、その価格に見合った価値を提供することだ。
スプリングスティーンの価格戦略が成功と見なされるかどうかは、「価格に見合う価値があった」と思わせるコンサートにできるかどうかにかかっている。これまでの彼のイノベーションと完璧なまでの献身を考慮して、私はブルースの成功に賭ける。
"7 Lessons on Dynamic Pricing (Courtesy of Bruce Springsteen)," HBR.org, September 30, 2022.