カスタマーセントリシティから
ライフセントリシティへ

 企業はこれまで、パフォーマンスを重視した製品中心のアプローチから、体験を優先する「カスタマーセントリシティ」(顧客中心主義)の戦略へと移行してきた。だが現在は、より複雑な力学が働いている。企業は、顧客を「予測不可能な外的要因によって深く影響を受け、常に変化し続ける複雑な人々」として受け入れなければならない。

 いま必要なのは「ライフセントリシティ」(生活中心主義)のアプローチだ。

 生活を中心に据えた企業は、テクノロジー、健康、文化など、顧客の生活に最も大きな影響を与える要因に深く関与している。それらの要因と顧客の日々の意思決定とを橋渡しして、相互作用を促すことで、レレバンスを実現するのだ。そして、生活の変化に合わせて、製品、マーケティング、セールス、サービス体験を進化させることで、そのレレバンスを維持する。

 家電量販店大手ベスト・バイのケースを考えてみよう。同社は、テクノロジーが顧客の日々の活動の一部であると同時に、互換性のないエコシステムの中で複数の製品を管理しようとすると、ストレスやコスト、混乱の元にもなることを認識していた。そこで、商品の購入、設定、理解、利用を容易にし、何か問題が発生した場合には修理もできる会員制サポートサービス「トータルテック」を新たに展開した。

 このように生活中心主義にシフトしたことで、同社は「商品を購入する場所」から、会員のための「トータルライフテクノロジーパートナー」へと変わった。商品や体験だけでなく、顧客の生活全般に対するニーズの高まりを察知し、状況の変化に合わせて、人々のテクノロジー体験をより快適にする新サービスを提供しているのである。

 顧客の生活全体を見据えるということは、テクノロジーにまつわる文化的・社会的規範の変化に対応する方法を見出すことを意味する。

 福岡銀行などを傘下に持つふくおかフィナンシャルグループでは、実店舗の利用が10年間で40%減少するという課題に直面していた。実店舗を敬遠し、お金の見方が前の世代とは異なるデジタルネイティブに、よりよいサービスを提供する方法が必要だった。

 そこで生まれたのが「みんなの銀行」だ。フリクションレスなモバイルアプリを中心に、金融サービスと非金融サービスの両方を盛り込んだクラウド型のバンキングシステムである。シンプルで楽しいサービスを提供し、焦点をお金そのものから、お金が人々の生活にもたらすものへとシフトした。

 同様に、マイクロソフトは、デジタルアップグレードを必要とする組織の数と、その作業を担えるだけの技術を有する開発者の数とのギャップが大きくなっていることに気がついた。そこで立ち上げた「Power Pages」は、複雑なビジネスの状況に対応した高性能でデータ中心のウェブサイトを、ユーザーが迅速に構築し、コーディングの知識がなくても顧客やコミュニティに広くリーチできるツールだ。

 マイクロソフトは、単に新しいプロダクトを提供するのではなく、より広範な生活環境に対応するプロダクトを創り出した。しかも、フレキシビリティが備わっているため、企業は変化するニーズに適応し続けることができる。

 このツールによって、企業は自社の技術的な習熟度に関係なく、大規模な変化に対応し、デジタルイノベーションを加速するための、現代的で安全かつ信頼性の高いプラットフォームを得る。そして、彼らの顧客も、必要とするシームレスなデジタル体験を手に入れることができるのだ。