女性はどのように主張すればよいのか

 企業には、従業員との交渉のあり方をより公平なものにする責任がある。だが一方で、バックラッシュのリスクを減らし、成功の確率を高めるために、女性自身が活用できる戦略もいくつかある。

 交渉のベストプラクティスとして、自身の説得力を高め、相手との関係を築くためには、2つのことを行うのが有効だ。まずは、なぜ自分の要請が適切かつ正当なのかを説明すること。そして、なぜ自分の提案が双方の利益にかなうのかを説明することだ。

 たとえば、筆者のバレンタインが行っている交渉のトレーニングでは、「私は昇進に値する人間です」と言うのではなく、自分のパフォーマンスが基準に達していること(「売上げ目標を10%上回る見通しです。これによって、部署の期末目標が達成されるでしょう」)、そして昇進によって会社の目標達成が後押しされること(「バイスプレジデントの肩書を得ることで、私に対する信頼が高まり、さらに多くの顧客を獲得できるようになります」)を説明するように助言している。

 バレンタインのクライアントの一人であるジャッキーは、転職先と交渉した時のことを、次のように振り返っている。

「その会社は素晴らしいと思ったのですが、提示された給料があまりに安く、役職も私の経歴を考えると低すぎました。そこで、会社と話し合い、これまでの経験を前提にすれば、提示された役職より高い地位に就くことで、会社により多くの価値をもたらせると主張しました。高い役職を担えば、会社の成長戦略に貢献できると伝えたのです。交渉の結果、会社側は提示内容を修正し、最初より高い役職を提示してきました。報酬額も40%増え、私のキャリアの道筋もより明確なものになったのです」
 

 私たちはいま、従業員の交渉に関して、過去に例のない時代に生きている。新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、働き方が変化し、その変化は加速している。さらに、いままでにない規模で労働移動が進んでおり、経済の不確実性も高まっている。そのような状況で、企業は人材の獲得と維持に苦戦している。

 今後、従業員の会社に対する交渉が急増していく中で、男性も女性も時代遅れのジェンダー観に囚われ続ければ、よりいっそう不平等な状況が生まれてしまうかもしれない。公平な働き方の共創を、ジェンダーに関する思い込みと交渉に関する固定観念に妨げられないよう注意すべきだ。


"3 Negotiation Myths Still Harming Women's Careers," HBR.org, October 04, 2022.