●神話2「女性は常に、給与交渉すべきである」
2つ目の誤った思い込みは、男女の賃金格差を埋めるために、女性は常に給料について交渉しなくてはならないというものだ。
バレンタインのクライアントの一人は、次のように述べている。「男女の賃金格差について書かれたものを読むたびに、自分が給料の交渉をしなければ、女性全体の足を引っ張ることになるのではないかと感じてきました」
しかし、このような負荷を女性に課すのは、不公平だと言わざるをえない。男女の賃金格差は、同じ職種に就いている男女の間で賃金に差があるからというよりも、男女で就く職種が異なることに起因するからである。
男女の賃金格差は、男女のフルタイム労働者の所得を比較するという形で算出される。男性が多くを占める職種と女性が多くを占める職種を比べると、平均で見た場合に、前者のほうが給料が高い半面、長時間労働を要求される場合が多い。
女性の給料が不当に低く抑えられているケースがあることを、否定するつもりはない。そのような状況は是正すべきである。しかし、男女の賃金格差の解消を目指すうえでは、単に女性が現在の職務で昇給の交渉をするだけでなく、女性のキャリア開発について交渉を進めるほうが、おそらく効果的だろう。
男女の賃金格差を解消するためのカギを握るのは、女性がさらに高給の職に就けるようにキャリア開発を支援し、仕事と家庭を両立させるために労働者が負わなくてはならないコストを削減することだ。
換言すれば、女性が役職に関する交渉を行い、すべての労働者が仕事と家庭の両立にまつわる問題を解決できるよう、企業は支援を強化すべきなのだ。女性にだけ、ひたすら給与交渉を行うようにプレッシャーをかけることは、やめなくてはならない。
●神話3「バックラッシュは避けられない」
女性は、不安や警戒心を抱いたまま、キャリアに関する交渉に臨む場合が多い。職場で同僚から仲間外れにされたり、チームから排除されたりといったバックラッシュ(反動)を恐れているためだ。そのようなバックラッシュを防ぐには、企業が教育を行うこと、そして規範を設定することが有効だ。
たとえば、マネジャーに対して、自分の思考に影響を及ぼす可能性のあるバイアス(昇進を求めた自己主張は、女性ではなく男性が行うことだという思い込みなど)について教育することができる。また、ジェンダーステレオタイプに基づく決めつけ(女性は大きな野心を持たないのが当たり前だと考えたり、男性は家庭より仕事を優先させるべきだと考えたりすることなど)には、積極的に抵抗するように促すこともできるだろう。
このような教育の一環として、企業はマネジャーと従業員の両者に向けて、キャリアに関する交渉については、より広い視野で考えるように促すことも重要だ。給与だけでなく、職務(昇進やキャリア開発の機会など)や業務量(仕事の割り当てやスケジュールなど)も対象になりうるという認識を広めなくてはならない。