1. 満足できるものにたどり着くまでのステップが多すぎる
ネットフリックスは、面白いコンテンツを見つけるのに時間がかかりすぎるので使うのをやめた、という人はいないだろうか。筆者もしばしばコンテンツを視聴するよりも探すことに時間を取られている。
今日のネットフリックスにおける無限スクロールのオプションは、最初に同社を成功に導いたDVD郵送サービスからかけ離れている。当時は、赤い封筒を開いて、DVDをプレーヤーに入れるだけでよかった。選択することも考えることもなく、ただ事前に選んだものを見るだけである。ネットフリックスは使いやすさを武器に、競合だったブロックバスターの顧客の行動習慣に変革をもたらし、同社を打ち負かした。
商品にまつわる習慣的行動が、同じニーズを満たすほかの選択肢よりも手軽でなくなった時、サブスクリプションビジネスは窮地に追い込まれる。フック・モデルのアクションの段階で、顧客を失う危険がある。
今日、守勢に立たされているのはネットフリックスのほうである。ユーチューブやティックトック、インスタグラムなど、即座に退屈から解放してくれるエンターテインメントのオプションが乱立するいま、ネットフリックスは、利用者がただ郵送されたものを再生していた昔には戻れない。選択肢が果てしなく広がっていることを顧客に認知させる代わりに、簡便さを犠牲にしたのだ。
ネットフリックスもこの問題に気づいており、映画やテレビ番組の選択を簡素化しようとしている。視聴者のために見るべきコンテンツを即座に選び出す「プレイサムシング」(ランダム再生)機能を試しているが、いまひとつ反応はよくないようだ。
視聴者のニーズは、何でもよいからとにかく見たい、というものではない。価値のあるものが見られることを期待している。見るべきものを選びやすくするために、視聴者自身がグーグルクロームの拡張機能で映画批評のスコアを画面に表示させる、という解決策を講じていることは示唆に富んでいる。
ネットフリックスが肝に銘じるべきこと、それは、もしサブスクリプションサービスがほかのサービスよりも使いにくくなったら、そこでゲームオーバーだということだ。
2. 目新しさが足りない
人間というものは、満足感があまり長続きしないようにできている。
私たちの脳には、古いものに飽きて新しいものを探そうとするソフトウェアがもともとインストールされている。これは「快楽順応」と呼ばれるもので、宝くじに大当たりした人や下半身不随の患者が、やがて、人生を変えた出来事が起こる前と同じレベルの幸福感に戻る傾向があるのも、そのためだ。
私たちは最初のレベルの満足感にすぐに戻ってしまう傾向があるがゆえに、強烈な刺激に抗えない。その刺激とは驚きである。ギャンブルにのめり込み、テレビを楽しみ、スポーツに胸が躍り、ソーシャルメディアが習慣化するのは、そこに「可変性という報酬」があるからだ。人間には貪欲な好奇心があり、常に新しくよりよいものを探している。裏を返せば、目新しさを恒常的に提供できないサブスクリプションサービスには、お金を出さなくなるのである。
最近の流行りである「サブスクリプション・ボックス」を考えてみよう。ランジェリーから動物の骨、スライムにいたるまで、あらゆるものを商品として、ボックスの定期便で届けるサービスである。このようなサービスの中には、伝統あるブック・オブ・ザ・マンス・クラブのように、100年近く続いているものもある。だが多くは、「骨が箱詰めされたサブスクリプションなど、誰が契約するのだろうか」と疑問を抱く間もなく、現れては消えていく。
サブスクリプションサービスの主な解約理由は、可変性の低下である。数カ月もすると、サブスクリプション・ボックスの企業はソックスやプロテインバーの配送に対して、毎回驚きを与える要素を保つことに苦労する。「面白い」より「ありきたり」が多くなると、顧客は興味を失い(たいていは、より安価な)別の選択肢を見つける。
幸いにも、可変性を豊かにし、サブスクリプションサービスへの興味を持続させる方法がある。それは、ユーザー自身が使用しながらサービスを向上させるという、フック・モデルの「投資」の段階である。
3. 蓄積価値が欠如している
SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)は、非常に大きな利益を上げるサブスクリプションビジネスになる可能性を持っている。SaaSの粗利益の高さはよく知られており、ユーザーの習慣を形成するソフトウェアを月額料金制で販売する企業は収益性が高い。
SaaSはたいてい無料で試用できるので、高額な初期費用を必要とするソフトウェアに対して競争優位にある。新規ユーザーの獲得は比較的容易で、顧客が商品を使用している最中に、なんらかの摩擦が発生することは少ない。
しかし、顧客の維持となれば話は別だ。SaaS企業で働いている人に、夜も寝られないほど気になる最も重要な指標は何かと聞いてみてほしい。きっと、顧客の解約率だと答えるだろう。顧客を虜にし続けることができなければ、彼らはサービスの利用をやめて金を出さなくなる。
多くのサブスクリプションサービスは、フック・モデルにおける決定的に重要な第4のステップ「投資」の段階を軽視している。この段階では、ユーザー自身が商品に何かを加えて使うことによって、よりよいもの、より離れがたいものにしていく。筆者はこの原理を「蓄積価値」と呼んでいる。
蓄積価値は、サービスの種類によっていろいろな形をとる。たとえば、データを提供する、コンテンツを加える、フォロワーを獲得する、つながりを形成する、評判を築くことなどは、契約者が時間をかけて商品の価値を高めていく例の一部であり、これ以外にも例はたくさんある。フック・モデルを活用し、契約者の使用を通してサブスクリプションサービスを向上させる企業も少なくないのである。