希望は諸刃の剣であるため、チームが前を向き続けるようにするには、希望という感情を賢明かつ生産的に利用する必要が組織にある、というのが筆者らの主張だ。
この論点について探究するため、筆者らは人身売買の被害者のトラウマを癒す活動を行っている団体で、ナラティブエスノグラフィーという研究手法を用いて調査を行った。2年間にわたる調査では、インタビューを通じてデータを収集するとともに、その団体で実際に多くの時間を過ごした(筆者の一人は、150時間以上の行動観察を行っている)。
調査の結果、この団体では、日常会話の中で、未来への希望に満ちたビジョンを共有していることが明らかになった。
まず、見通しが悪い時には、従業員は団体のビジョンに立ち返り、自分たちの活動が人身売買の被害者を癒すことにつながるのだと、みずからに言い聞かせていた。また、自分たちが採用しているセラピーやカウンセリングの手法、そして法的サービスやソーシャルサービスを通じて、被害者を支援している方法には効果があると信じていた。そして、従業員同士の交流や絆を深める機会を提供することで、彼らのモチベーションを維持していた。リーダーは、困難な時に団結することの重要性を繰り返し強調していた。
ある時には、希望を持つ文化が組織に前向きな結果をもたらしていた。活気に満ちあふれ、当初の範囲を超えて目標を拡大することさえあった。グループのメンバー間で気分が伝播する「情報伝染」(emotional contagion)こそ、組織で希望を持つ文化が、成果に与える影響を決定づける重要な要因であると筆者らは発見した。組織の計画が達成されたり、何らかの見込みが実現しそうな兆候があったりすると、希望に満ちたストーリーがチーム全体に広がった。
たとえば、人身売買を生き延びたサバイバーの中には、インターンシップに参加したり、薬物やアルコールの回復プログラムでピアメンターを務めたり、目標に向かって着実に前進し、自分自身に、そして手に入れたい未来に対しても自信を深めている人がいた。
このような前向きなストーリーが共有されると、組織はサバイバーの回復を促し、世界規模で行われている商業的な性的搾取の撲滅を主張することに、揺るぎない意志を持ち続けることができた。実際に、彼らは当初の計画よりも多くを成し遂げることを目指した。
しかし、筆者らの調査では、希望を持つ文化が裏目に出ることも明らかになった。希望を持つ文化が前向きに働くのは、目標が達成されたり、何か期待されていることが実現するのが、現実的だと思われる場合に限られていた。
希望を持つ文化の主張と矛盾するような出来事や、物事が軌道から外れるような出来事が起きれば、同じように情報伝染が起きる。それも、後ろ向きのものだ。筆者らの研究でも、希望を持つ文化が疑問視されるような出来事があると、絶望的な感情が伝染し始めた。
たとえば、人身売買のサバイバーが薬物やアルコールに再び手を出したり、支援の手から抜け落ちて路上生活に戻ったりすると、メンバーは自分たちの葛藤についてより多くを語るようになった。そして、メンバーが葛藤について話すと、組織の中にネガティブな感情が呼び起こされた。
サバイバーが回復できなかった場合には、期待される未来と現実とのギャップが広がり、絶望が襲った。特に、そのサバイバーが、団体のプログラムの信条に従い、回復に向かう道筋の中で他の人々を支え、組織が掲げるビジョンを信じているように思われていたにもかかわらず回復できなかった場合である。ネガティブな感情に支配されると、希望を持てず、組織にはどんよりとした空気が広がり、エネルギーがますます失われていった。そしてついに、自分たちの目標を放棄するようになった。