景気後退局面では、なぜ幅広い商品の選択肢を消費者に提示することが有効なのか
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サマリー:自分が持っていると感じるパワーの大小は、意思決定に大きな影響を及ぼす。特に小売業界の場合には、消費者の購買行動を大きく左右しうる。みずからのパワーが大きいと感じている消費者は、その力を見せつけるべく種... もっと見る類が豊富な商品一式を買おうとすると思われがちだ。しかし実際はその逆で、パワーが小さいと感じている消費者のほうが、商品の多様性を重んじていることが明らかになっている。また、自分が物事をコントロールできるという自律性の感覚も大きな影響を与えるという。本稿では、一連の研究結果から得られた知見を提示し、小売業界のマーケティングにどう活かすことができるかを論じる。 閉じる

一連の実験結果が小売業界に示唆するもの

 あなたはいま、自分がどれくらいパワーを持っていると感じているだろうか。

 この問いの答えは、あなたが自分自身や他者に対して、実際に持っている権力の大きさによって決まると考えている人が多いかもしれない。しかし実際のところ、ある状況において自分がどれくらいパワーを持っていると感じるかは、多くの要素に左右される。

 たとえば、経済的状況が悪化し、物価上昇や失業への不安を強く感じていれば、自分のパワーが小さくなったと感じるかもしれない。逆に、高給の職に就けば、自分のパワーが大きくなったと感じる場合もあるだろう。応援しているスポーツチームが大きな試合で勝利を収めたり、単に高い椅子に座ったりといった一見、些細なことであっても、自分のパワーが大きくなったと感じる要因になる場合がある。

 そして、自分がどれくらいパワーを持っていると感じているかは、私たちの意思決定にも大きな影響を及ぼす可能性がある。

 特に、筆者らの最近の研究では、消費者が自分にどれくらいのパワーがあると感じているかが、その人の購買行動を大きく左右しうることが示されている。

 筆者らの研究では、自分のパワーが小さいと感じている消費者は、購買行動において、商品の多様性を重んじる傾向があることが明らかになった。これは、無意識のうちに、みずからの自律性を取り戻したいと考えるからなのだろう。この研究結果は、いわゆる「補償的消費」(実利的な価値を求めて商品を購入するのでなく、何らかの心理的脅威を埋め合わせるために行う消費)に関する先行研究の結果に沿うものだ。

 たとえば、パワーの小さい買い手は、種類が多いチョコレートの詰め合わせを選ぶ傾向がある。それに対し、パワーの大きい買い手は、種類の少ないチョコレートの詰め合わせを選ぶ傾向がある。

 これは、意外な結果に思えるかもしれない。やはり何といっても、自分のパワーが大きいと感じている場合には、そのパワーを誇示するために、多くの商品を買えることを見せつけるべく、できるだけ多くの種類の商品を買おうとするようにも思える。しかし、筆者らの研究では、実際はその逆であることが示唆されている。

 パワーの大きい顧客は、欲しいものがあればいつでも買えるとわかっているため、多くの種類の商品を「つまみ食い」する必要性は感じない。対照的に、パワーの小さい顧客は、みずからが自律性を持っているという感覚を取り戻し、自分自身で物事をコントロールできるのだと再確認したいという意識が働く。そして、1種類でなく、6種類のアイスクリームを選択する行動は、その助けになる。