筆者らは、この点について検証するために一連の実験を行った。

 そこでは、実験参加者が「どれくらい自分にパワーがあると感じるか」を操作するために、みずからにパワーがあると感じた経験、もしくはパワーがないと感じた経験を回想させたり、実験内で上司役もしくは部下役を割り振って行動させたりした。

 そのうえで、キャンディー、アイスクリーム、コーヒーなどに関して、いくつもの種類の商品の詰め合わせと、1種類の商品のどちらを選ぶかを尋ねた。すると、パワーが小さいと感じるように仕向けられた実験参加者は、種類の多い詰め合わせを選ぶ傾向があることが、一貫して見られた。

 しかし、実験参加者が自律性を強く感じるように仕向けると、この傾向が和らぐことも明らかになった。

 ある実験では、実験参加者に対して、キャッチコピー付きの商品を提示した。キャッチコピーは、中立的な内容の場合と、自律性を取り戻せるように設計された内容の場合(たとえば「あなたは自分自身のボス。そのことをけっして忘れないで」といった言葉)を設定した。また、別の実験では、一部の実験参加者にはカスタマイズ可能な商品(たとえば、自分の好きな言葉を印刷できるマグカップ)を示し、別の実験参加者にはカスタマイズ不可能な商品を示した。

 このような介入措置によって、実験参加者が感じるパワーが強まることはなかったものの、その自律性については間違いなく強まった。自律性を強く感じることによって、自分のパワーが小さいと感じていることを埋め合わせるために種類の多い商品を選ぼうとする欲求は低減された。

 結果として、その参加者は、自律性を取り戻させるようなキャッチコピーを見たり、カスタマイズ可能な商品を示されたりして、自律性の感覚が強まった実験参加者の間では、パワーの感じ方が種類の多い商品の詰め合わせを選ぶかどうかに影響を及ぼすことはなかった。

 筆者らはさらに、実世界のレストランを舞台に、同様の実験を行った。まず、実験参加者を高い椅子に座るグループと、低い椅子に座るグループに分けることにより、彼らが自分にどれくらいのパワーがあると感じるかを操作した。そのうえで、実験参加者に2つのメニューを提示し、いろいろな種類の料理が少しずつ載った盛り合わせと、単品の料理のどちらかを選んでもらった。料理の量と質は、同等だ。ここでもやはり、自分のパワーが小さいと感じるように仕向けられた参加者は、いろいろな種類の料理が載ったメニューを選ぶ傾向が見られた。

 また、パワーが小さいと感じている顧客の欲求に応える形で、多くの種類の商品が手に入る選択肢を示すと、彼らが実際に商品を購入する確率が高まる可能性があることも明らかになった。

 この点に関して、筆者らは2つの類似実験を行い、実験参加者に対して、多くの種類が手に入る選択肢と少ない種類しか手に入らない選択肢を示した。具体的には、1種類のコーヒー豆と複数の種類のコーヒー豆、おかずが2品の弁当と4品の弁当を用意した。その結果、自分のパワーが小さいと感じている場合、商品の種類が多い選択肢を提示されると、購入への前向きさが20%高まった。