相互に強化し合う、将来に備えたケイパビリティを構築する

 多くの企業が、自社の文化を変えようとして失敗する。あるべき姿を説明する(というより処方する)プログラムを通して企業文化を変えようとするのだが、これは順序が逆だ。

 文化は日々のルーチンや共通の価値観、暗黙のルール、つまりその企業の労働習慣を通して形成されるものであって、指示やトレーニングによって形成されるものではない。習慣を変えるには、デジタル関連の取り組みから会社の価値の創造につながるような、将来に備えたケイパビリティを構築して、それが相互に強化し合うようにしたほうがよい。

 たとえばセメックスは、受注処理とCRM(顧客関係管理)の新システム、およびプロセスとCEMEX Goを統合して受注確認をデジタル化した。このシステムでは、注文をオンラインで確認すると自動的に在庫や輸送、その他の顧客の購入過程の要素をチェックできる。

 セメックスは2022年までに、セメント商品の受注処理を自動化した。そしてそのケイパビリティと構成要素を土台にして、レディーミクストコンクリート(生コン)商品を提供するためのより複雑な調整プロセスを自動化した。補完的システムとそれに関連する習慣およびプロセスから、相互強化につながる学びが生まれ、時間とともにそれが蓄積されてきたのである。

ダッシュボードでデジタル価値を追跡する

 ダッシュボードは、節目となるマイルストーンの測定や、ケイパビリティの向上といったデジタル価値創造に効果的である。また、最終的な収益に変化が表れるまでには相当な時間がかかるので、その間、企業が脇道に逸れずに前進するよう発奮させる効果がある。効果的なダッシュボードがあると、全員が現状と進捗状況を見て、より適切な軌道修正を行うことができる。また指揮統制型のモデルからコーチング・コミュニケーション志向のアプローチへと移行しやすくなる。

 ダッシュボードのメリットを示す好例が、シュナイダーエレクトリックの「デジタル・フライホイール」である。同社がデジタル・フライホイールを構築したのは、エネルギー商品の販売に留まらず、エネルギー効率管理を含めたデジタルサービスの拡大を推進するためだった。

 このダッシュボードは、IoT(モノのインターネット)に対応したビジネスモデルの4要素を図示し、個々の要素について財務パフォーマンスを把握、追跡する。そして、それらの機能に劣らず重要なのは、このダッシュボードのおかげで、4つの要素の連携により企業の価値と売上げが向上し、クライアントにとっての価値も向上している(エネルギー効率の向上として測定される)と目に見える形でわかることだ。

 同社の特徴的なビジネスモデルは、年間収益300億ユーロの50%を占める成長を見せており、ダッシュボードがその成長に貢献してきたのである。

デジタル・パートナーを募る

 将来準備型の企業にとって、パートナーを組むことはそれ自体が目的ではなく、エコシステムから価値を創造するという目的を達成するための手段である。デジタル・パートナーは、デジタルでつながることで、企業のリーチとレンジの拡大に貢献する。

 不動産テック企業のジロウを例にとろう。ジロウは、住宅購入過程における顧客のニーズを満たす新しい方法を探り当てた。当初は住宅の検索サービスを提供していたが、まもなく保険や金融など6以上の業界に手を広げた。不動産業者や住宅ローンのブローカー、弁護士などのパートナーを取り込み、多くのサービスを統合してデジタルで提供するようになったのである。それにより、住宅購入の過程がシンプルになり、顧客体験が向上している。また、ジロウは取引費用からより多くの価値を獲得する機会を創出する。

従業員がデジタル通になれるよう投資する

 デジタルに精通した企業は、「我々対IT」という対抗意識や、ITデジタルとそれ以外の部門で責任のなすりあいをするメンタリティを持たない。取締役から新入社員まで、あらゆる人がデジタル通になることを目指している。メリット(イノベーション)についても、リスク(停電やサイバー攻撃)についても、共同で説明責任を負う。

 シンガポールのDBS銀行は、早くから全社を挙げてデジタルに精通するための変革に踏み切った。そして同行は、各部署へのイノベーション担当者の配置、アジャイル手法の実践、従業員のリスキリング(再教育)とアップスキリング(スキル向上)、テクノロジーの実地体験の推進といった取り組みを行っている。

 デジタル化の波は今後も続く。ともすれば、大量の変革イニシアティブで何かしている気になりがちだ。しかし、真の意味で将来に備え、大きな利益を取り逃さないためには、デジタル価値を創造・獲得し、目に見える形でその価値を追跡する具体的な方法に注力し続けることが大切である。


"Is Your Company Seizing Its Digital Value?" HBR.org, October 21, 2022.