
デジタルから生み出される価値を取り逃していないか
筆者らがかつて一緒に仕事をした国際的な金融サービス企業は、デジタル化の重要性をよく理解しているように見えた。最高デジタル責任者を雇い、多くのプロジェクトを成功させ、顧客体験を向上させていた。一部のタスクについては対面からオンラインへの移行が円滑になり、顧客データに基づき、ターゲットを絞ったオファーが行われた。素晴らしい顧客価値を創造していると、同社は確信していた。
だが実は問題があった。このような局所的なイノベーションの結果、
デジタル時代に入って、企業が価値を創造・獲得する方法は一変した。しかし、ほとんどの企業はその変化に追いついていない。筆者らの研究によると、今日の平均的な企業はトップ企業に比べて、潜在的なデジタル価値の実に50%以上を取り逃しているのである。
さまざまな業界の国際企業と仕事をしてきた筆者らの経験に照らすと、その理由は明白である。多くの企業は、デジタル変革の取り組みを「実施する」
焦点は徹頭徹尾、価値に置くべきである。つまり、デジタル経済で競争力を保つための思考や運用、能力開発、スコアの記録、組織化、提携、そしてイノベーションの方法を変えていかなければならない。筆者らはこれを実行している企業を「将来準備型の企業」と呼んでいる。その中で最も成功している企業は、デジタル関連の取り組みにより、潜在的な価値の70%以上を創出し、平均的な企業に大きな差をつけている。
デジタル価値の3タイプ
企業とそのリーダーが将来準備型の思考に移行するには、まず3つのタイプのデジタル価値を理解することが重要である。以下では、どこで、またどのようにして各タイプの価値が創造され、それを取り逃すリスクがどこにあるかを提示する。
ここでは建築資材の国際企業セメックスを例に説明する。
顧客に由来する価値
この価値には、クロスセリングや新しいサービス提案による収益の増加、顧客のスティッキネス(粘着度)やロイヤルティ(信頼や愛着)の向上が含まれる。顧客のニーズを満たし、素晴らしい顧客体験を提供し、
セメックスの場合、顧客価値に焦点を当てることで変革が始まった。主要な顧客である建設現場監督の仕事の厳しさを認識したのち、2017年、モバイルアプリ「CEMEX Go」(セメックス・ゴー)を開発した。これ一つで現場監督は、アドバイスや価格設定や注文など、セメックスに求めるものすべてが手に入るようになった。またウーバーのような追跡機能も付いていて、セメントの配達状況が把握できる。CEMEX Goは同社にとって画期的な取り組みとなり、これを通して収益が大幅に増加しただけでなく、顧客ロイヤルティを測定する指標であるネット・プロモーター・スコア(NPS)も著しく向上した。