運用に由来する価値

 運用による価値は、デジタルビジネスの基盤であり、コストの削減、効率とスピードの向上が含まれる。モジュラーコンポーネントの開発、再利用可能なデジタルコンポーネントの創造、自動化、オープンネスと機敏性を高めることによって、この価値を創造できる。

 セメックスは顧客体験の向上を図るとともに、広範囲にわたって、運用効率やアプリのコスト・トゥ・サーブの削減に力を注いだ。

エコシステムに由来する価値

 ここに含まれるのは、企業のエコシステムの構成メンバーに由来する収益や、他社との提携を通じて、顧客や事業に生じる新たな価値である。このタイプの価値は最も見過ごされやすく、リスクが高いものとして先送りされやすい。しかし、企業がデジタル対応型・提携ベース型のモデルに移行するにつれ、エコシステムに由来する価値の重要性は増し、収益にも大きく影響するようになる。

 ほぼすべての企業が、リーチ(より多くの顧客にアクセスすること)とレンジ(より多くの商品とサービスを加えること)の両面で、パートナーを利用することで、エコシステムから大きな価値を生み出すことができる。

 セメックスは、コンストルラマという建設資材流通ネットワークを通して、それを実現している。現在、コンストルラマはメキシコおよびセメックスの拠点がある中南米諸国で、最大の建築資材小売チェーンとなっている。2018年には、コンストルラマ・オンライン・ストアを立ち上げ、エコシステムを活用するアプローチによって、建設業界に変革をもたらし続けている。 

デジタル価値を創造するための行動

 いろいろなタイプの価値が明確になったところで、筆者らの研究から明らかになった、デジタル価値を創造するカギとなる行動を紹介しよう。

チャンスを見つけ出す

 まずは、自社の業界の枠を超えて考えることが必要だ。デジタルサービスの核心は、次に来そうなもの、これまで不可能だと思っていたことについて想像力を働かせ、顧客のためにまったく新しい価値提案を作り出すことにある。

 たとえば、eコマース企業のショッピファイは、業界を超えたさまざまなパートナーが顧客を全過程で支援できるプラットフォームを提供することで、オンラインビジネスの領域の可能性を引き出した。

 このプラットフォームのサービスには、ブランド構築、オンラインプレゼンスの創出、オンラインストアの設置、販売、ロジスティックスと発送、支払処理、日常業務の管理が含まれる。

 どの活動もそれ自体でビジネスになるが、ショッピファイは、顧客の全領域でのニーズを満たす統合されたソリューションを提供することで価値を創出している。そして、2021年の米国市場におけるeコマース売上の10.3%を占め、いまやアマゾン・ドットコムに次ぐナンバーツーの企業となっている。

 それぞれの領域でチャンスを見つけ出すには、まず典型的な顧客がたどる過程を最初から最後まで、自社の守備範囲ではないものも含めて、よく観察することだ。そして改善の方法を検討する。補完的サービスを追加するために他社と提携し、ワンストップのプラットフォームをみずから所有してもよい。