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人は嘘をつかれると、嘘をつき返す
想像してほしい。あなたがサプライヤーと契約交渉をしている、あるいはサプライヤーとして潜在顧客と契約交渉をしている時、相手方が嘘を言った。それに気づいたあなたは、(A)「正直な態度を維持する」だろうか。それとも(B)「嘘をつき返す」だろうか。
自分が他人にしてほしいように振る舞えという、カントばりの定言命法に従う人なら、Aを選ぶだろう。だが、多くの人はBを選ぶ。つまり、嘘をつき返すのだ。
筆者らの研究(2022年9月に『ジャーナル・オブ・オペレーションズ・マネジメント』に発表された論文)で明らかになったように、こうした行動には危険な側面がある。1度でも嘘をつくと、嘘は伝染する。他の企業の人との付き合いや交渉においても、嘘をつきやすくなるのだ。したがって、企業はそのような行為を抑制し、それが拡散するのを防ぐ措置を取るべきである。
実験でわかったこと
筆者らは、B2B営業の経験がある営業職の人々を集めて、2つの実験を行った。参加者はそれぞれ350人と424人。どちらの実験でも、参加者には、美容製品と家庭用掃除用品のサプライヤーの営業責任者として、さまざまな顧客企業の調達責任者と価格交渉をしてもらった。
その結果、明らかな伝染効果が見られた。第1の実験では、最初の交渉で誠実な対応をされた参加者のうち、最後の交渉で嘘をついた人はわずか16%だった。これに対し、最初の交渉でごまかすような態度を目撃した参加者のうち、最後の交渉でみずからも嘘をついた割合は55%に上った。
第2の実験では、ごまかしがあまり魅力的でないように見えるひねりを加えた。それでも嘘の伝染効果は変わらなかった。正直な対応をされた人と比べて、ごまかしを目撃した人は、その後の交渉で嘘をつく割合が2倍以上になったのだ。ただし、どちらの実験でも、正直さにも伝染効果があることが確認された。驚くべきことに、正直な対応やごまかし的な態度にさらされる頻度は、全体的な伝染効果に影響しなかった。1回嘘にさらされるだけで、十分な伝染効果があったのだ。