
ブランド統合は
中小企業にこそ重要なテーマ
ブランドの統合は、ビッグビジネスに特有の問題と考えられがちだ。たとえば、最近、アマゾン・ドットコムがホールフーズを137億ドルで買収したが、アマゾンはホールフーズの店舗に自社のマークを入れるべきだろうか、などのように。
しかし実のところ、ブランディングの問題に直面するのは、大企業よりも中小企業のほうが多い。あるクリニックが別のクリニックを買収または合併したり、あるメーカーが別のメーカーを買収したり、ある会計事務所が心機一転、リブランディングしたり、といったケースなど、さまざまだ。
この分野に関して、筆者が気づいた企業の「やるべきこと」と「やってはいけないこと」や、また筆者自身の企業ブランディングの経験から言って、ブランディングの過程には障害や落とし穴が数多くある。ある調査によると、ブランドの統合は、5件に1件しか成功していないそうだ。
本稿では、中小規模のブランドを統合することのメリットとデメリットを考察し、プロフェッショナルサービスの分野で統合を立て続けに成功させている、ある経営者の事例を紹介する。ブランドの統合を検討している読者に、その進め方のヒントを提供できれば幸いである。
市場での存在感
メリット
大きなブランドほど、市場に大きな影響を与える。これはいわゆる「シェア・オブ・マインド」のことだ。「会計事務所」と言えば、「KPMG」を想起する人が少なくないだろう。これは中小企業にも当てはまる。たとえば、オーストラリアのミストラル・メディカル・センター(正式名称ではない)は、ほかの診療施設の買収とリブランディングを経て、以前の倍の規模になった。これにより、患者がその存在に気づく可能性も高くなった。
デメリット
しかし、この話には留意すべき別の側面がある。コンクリート会社のCEOであるジョンは、企業買収後にあえてブランド統合しないことを選択した。この業界の顧客には、変化を嫌うところや疑り深いところがある。また、元のブランドに忠誠心を持ち、信頼してきた相手が変わることを恐れる。そのため、ジョンの会社は競合他社を買収しても、既存のブランドをそれぞれ維持している。「顧客は、競合他社の製品を買ったら我が社の利益になることに、ほとんど気づいていない」という。
ブランドを統合しない別の例が化粧品業界にある。世界最大の化粧品会社で、幅広いブランドポートフォリオを持つ、ロレアルだ。10年にわたる一連のM&A(企業の合併・買収)がその成長の一つのカギとなっている。最近の例では、モディフェイス、ヴァレンティノ、そして皮膚科学を専門とする日本のタカミが挙げられる。ロレアルは、傘下の国際色豊かな36のブランドの整理統合を求めるあらゆる圧力を退け、複数ブランドを通じて長期的に利益を拡大する道を選んでいる。