コスト削減
会計事務所を買収すると、双方のデータを合わせ処理することによって、マーケティングを一元化し、電話応対を一本化し、管理部門をスリム化することができる。「将来の成長はこうした考え方に基づいて構築されます」とジェリーは説明する。
しかし、ブランド統合やコスト削減が裏目に出て、顧客やスタッフが離れていく可能性があることもジェリーは理解している。両ブランドを合わせた収益が、統合前の個別ブランドよりも少なければ、それはブランドの統合によって生じた損失である。したがって、ジェリーが言うように、「損益を定期的にチェックすることが重要」なのだ。
ジェリーは、買収の際に必ず「後払い」を組み込んでいる。つまり、取引成立時に買収額の80%を支払い、残りは見積もった通りのインカムが得られた場合に、12カ月後と24カ月後に10%ずつ支払う。これは、ジェリーが言うところの「流出」をカバーするものだ。
イメージの刷新
ジェリーがブランドを統合する3つ目の理由は、古い企業イメージを時代に合わせて刷新するためだ。しかし、これは必ずしも思い通りにいくものではない。昔からの顧客を逃さないことが重要であると、ジェリーは認識している。
彼は、どのような変更についても、顧客には「口頭」での連絡を徹底している。ブランド統合後も顧客をつなぎ留めるには、口頭で連絡を取ることが重要だと言い切る。それは、「買収実行日の1、2カ月前に行うべき」であり、「メールや手紙ではいけません。電話でも対面でも構いませんが、必ず口頭で伝えます」とジェリーは言う。そしてジェリーは、買収される側の事務所のオーナーにこの作業を担わせている。
「その目的は、顧客にこれから行われる変更について予告し、事務所の経営陣は残り、今後はハチソンと取引を行うことになると知らせる点にあります。このような口頭での連絡によって、見捨てられるのではないか、サービスの質が低下してしまうのではないかという顧客の不安を払拭することができるのです」
スタッフに対しては、特に「ていねいに伝える」ことを意識している。サービス業では、人間関係が何より大切だからだ。「顧客は通常、特定の会計士や簿記係と個人的かつ長期的な関係を持っています」と彼は説明する。特にジェリーのやり方では、コスト削減による余剰人材が生まれるため、スタッフの不安を払拭することが欠かせない。
「このような変更を適切に管理しないと、たとえば田舎町の会計事務所では、収益に大きな影響を与えることになります」
慎重に進める
筆者のこの処方箋は、プロフェッショナルサービス企業のブランド統合のケースに重点を置いているが、これらのアドバイスは他の業界の企業にも当てはまる。その際は、成功より失敗が多い事実を念頭に置きながら進めなければならない。
それはつまり、ブランドの統合はしないほうがよいということなのだろうか。
もちろん、そうではない。だが、筆者自身の経験や、ブランド統合の失敗はよくあるという調査結果を考慮すると、ブランド統合のメリットや進め方が明確でない場合は、そのままにしておくべきだと筆者は考えている。
"The Costs and Benefits of Brand Consolidation," HBR.org, November 17, 2022.