自社の競合は同業他社だけだと勘違いしていないか
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サマリー:経営者は自社の競合企業を知り尽くしているつもりでいるかもしれない。ところが顧客の視点で考えると、自社の競合企業が経営者が考えるものとは異なっていることに気付く。本稿では、レクサスをはじめとする近年新た... もっと見るに成功を収めたブランドや事業体に着目し、競合をどのようにとらえていたかを解説する。顧客はそれぞれの体験を、経営者が考えるような業界に限定した狭い視野で評価しているわけではない。顧客の中ではすべての体験が、競合関係にある。そのことを理解して戦略を策定することが、ビジネスを成功に導く。 閉じる

レクサスはなぜ成功したのか

 たいていの経営者は、自社の競合相手をわかっているつもりだろう。同じ業界の大手企業か、新しい技術やビジネスモデルを持つ新規参入企業、いわゆる「アンクルバイター」だ。

 しかし、競合しているのが自分の考えている相手ではないとしたらどうか。顧客は、あなたが競っている業界内の既存企業や新興企業だけでなく、業界の枠を超えて製品やサービスと出会っている。たえず変化する顧客の期待に応えるためには、ビジネス戦略をどう練ればよいだろう。

 その答えの出発点となるのが、筆者がIBMのシニアエグゼクティブであるブリジット・バン・クラリンゲンから初めて聞いた考え方だ。「最後に経験した最高の体験が、あらゆる場所における体験の最低限の期待値になります」と彼女は指摘した。

 つまり、あなたが自動車ディーラーなら、顧客は他の自動車ディーラーでの接客を基準にあなたの接客を評価するだけでなく、素晴らしいホテルや衣料小売店での接客と比較している。金融サービスなら、顧客はあなたの会社のオンラインバンキングシステムを他の金融会社数社のシステムと比較しているのではなく、グラブハブやエアビーアンドビーなどの消費者向けアプリの使いやすさと比較しているのだ。

 あなたの戦略が正しいかどうかは、ライバルの戦略に比べてどれだけ優れているかで判断できるものではない。顧客が期待するあなたの「可能なこと」「すべきこと」に応えているかどうかが、正しいかどうかを判断するための最終的な基準になる。

 この考え方のシフトを最初に理解した(ブリジット・バン・クラリンゲンが指摘するはるか以前に理解していた)ビジネスリーダーの一例が、トヨタの経営陣だ。彼らは過去四半世紀で最も成功した新しい高級ブランドの一つである、レクサスを立ち上げた。信頼性はあるが凡庸なトヨタにとって、BMW、キャデラック、メルセデス・ベンツに対抗する新しいブランドと独立会社を立ち上げるのは、大胆な戦略であり賭けだった。

 しかし、このブランドがすべきことは、単に新しい車を販売するだけではなく、自動車業界におけるラグジュアリーの新たなアプローチを作り出すことであると、彼らは理解していた。

 筆者が数年前にレクサスの立ち上げと成長を取材した際、現在アジア太平洋地域担当副社長を務めるデイビッド・ノードストロームは、「顧客は他の自動車ブランドと我々を比較しません」と話した。「顧客は他の高級ブランドと比較するのです。ティファニーやフォーシーズンズではある種の体験ができ、レクサスでもそのような体験が期待されます。人々は『自動車業界なのだから、同じ期待をすべきではない』とは考えないのです」

 これは極めて重要な戦略的洞察であり、以来、レクサスの販売とサービスに対するアプローチの指針となっている。レクサスはブランド立ち上げの初期に、ディーラーとゼネラルマネジャー500人を対象に、カリフォルニア州カールスバッドのフォーシーズンズリゾートで研修を行った。

 彼らは、ホテルが他にはない体験を提供するために実践している、あらゆる細やかなテクニックに注目し、それをディーラー用にアレンジした。ショールームに花を飾り、化粧室には大理石の床を使用し、サービス部門から車を受け取る顧客に向けて車内に水とチョコレートを置くようにした。