「スーパーヒーロー経営者」論のもう一つの問題点は、優れたリーダーシップとはどのようなものかを過度に単純化していることだ。
マスクをめぐる現在の論争を考えてみるとよい。彼のファンにとっては、テスラやスペースX、ペイパルでの成功は、彼が偉大なリーダーである証拠だ。アンチにとっては、ツイッターの大混乱は、マスクが偉大なリーダーではない証拠だ。
これはあまりにも短絡的な見方だ。調査によると、CEOは企業の成功に重要な役割を果たすが、その貢献はビジョンや知性だけでなく、状況に大きく左右される。
CEOの役割に関する筆者の研究によると、リーダーの企業への貢献には3つの側面がある。第1の側面は、「垂直的差別化」と筆者が呼ぶもので、最もよく知られる。あるリーダーは、より賢く、より戦略的で、より知識が豊富で、よりカリスマがある。彼らは広い意味で、CEOの役割に「より」適している。
たとえば、スウェーデンのCEOの研究によると、平均的な大企業トップのIQは、全人口の上位17%に入る。「マスクは先見の明のある天才なのか、それとも能力が不足しているのか」というネット上の大論争の根底にあるのは、この種の見方と言ってよい。だが、CEOの貢献はそれだけではない。
CEOの貢献には、「水平的な差別化」の側面もある。そのスキルや、知識や、リーダーシップのスタイルはそれぞれに異なり、特定の業界や状況に合う場合もあれば、合わない場合もある。
たとえば、かつての将軍は軍事作戦を指揮するなら素晴らしい能力を発揮するかもしれないが、ソフトウェアのスタートアップのCEOには向いていないかもしれない。その逆もまた然りだ。ウォルト・ディズニーがボブ・アイガーをCEOに復帰させたことは、トップとして成功するためには、その会社や経営環境に「合っているかどうか」が重要であることを示す証拠と見ることもできる。
CEOが追加する価値には、もう一つ複雑な側面がある、本人の能力やカリスマだけでなく、会社の他の人たちの行動に与える影響も重要であることだ。成功するCEOは、チームに影響を与え、やる気を起こさせる。これは本質的に社会的なスキルであって、ビジョンや知性の問題ではない。筆者の調査では、最高経営幹部には社会的スキルが大いに必要とされていることがわかった。
「スーパーヒーロー経営者」という考え方は、垂直的な差別化に関するすべての議論を単純化するものだ。その議論は楽しいし、複雑ではないから、メディアでも特集しやすい。他の2つの要因、すなわち、そのスキルが状況に合っているかと、組織内にポジティブな影響を与えるかという要因は、議論がしにくく、地味で、メディアでも取り上げにくい。だが、第1の要因にばかり注目して、ほかの2つの要因を無視すると、採用や投資の判断を誤ることになる。
では、マスクとツイッターに関して、この3つの要因から下す評価は、「スーパーヒーロー経営者」論とどのような違いがあるか。マスクのファンとアンチが展開する議論をもう少し複雑にして、この3つの要因に分けてマスクとツイッターのことを考えてみよう。
マスクが優れたCEOかどうかだけを議論するのではなく、ソーシャルメディアのプラットフォームを動かすのに必要なスキルと経験を持っているか、そして、既存のチームのモチベーションを高め、彼らを管理できるかどうか考えてみよう。
たとえば、マスクは平均以上の知性を持つCEOだが、ソーシャルメディアのプラットフォームを運営することにはあまり向いておらず、ツイッター買収までの行動を見る限り、この会社を成功させるために彼自身が必要とする人たちをやる気にさせるのは難しそうだ、という評価を下すのは合理的だ。
企業経営者をこのように分析することは、メディアの特集では扱われにくく、したがって、忘れられがちだ。だが、リーダーと組織の複雑な関係を無視することは、投資家と消費者、そして究極的にはマネジャーやCEOにとってもよいことではない。
"The Myth of the Brilliant, Charismatic Leader," HBR.org, November 23, 2022.