新しいテクノロジーへの
責任ある投資は利益をもたらす

 新しいテクノロジーは、常に「ハイプ」(コンセプトへの期待感による一時的なブーム)を生み出してきた。2021年は、IT大手やスタートアップが次期ディスラプターと喧伝したメタバースが台頭した。メディアの憶測と開発企業による宣伝に、企業各社はこぞってこの没入型デジタルユートピアに熱狂的な期待を寄せた。

 マーク・ザッカーバーグ、エリック・シュミット、サティア・ナデラといった業界のリーダーたちは、賛同者に新しいデジタル体験と、かつてないビジネスチャンスを約束した。しかし、メタバースは、少なくとも完成された形ではまだ存在しない。

 ガートナーの最近の調査では、半数以上のCEOが「メタバースが自社のビジネス発展のためのキーテクノロジーになる可能性は非常に低い」と回答している。さらに、ガートナーのハイプ・サイクルでは、メタバースを黎明期に位置付け、主流になるには10年以上かかると予測している。

 有望ではあるが、「ハイプ」の新しいテクノロジーと位置付けられているのは、メタバースだけではない。Web3、NFT、スーパーアプリ、ジェネレーティブAI、その他多くのイノベーションも、ビジネスにディスラプションをもたらす多大な可能性を秘めているが、いずれもまだ初期段階にある。

 2022年は、ハイプがもたらしうるダメージを目の当たりにした。4月のステーブルコインの突然の暴落や、暗号資産取引所FTXの破綻とその後の倒産がよい例だ。これらの破綻は、すでに衰退していた市場を揺るがし、市場参加者の信頼を損ない、仮想通貨は将来が不透明な微妙な状態に追いやられた。

 しかし、ハイプの崖っぷちにあるからといって、新しいテクノロジーが価値ある投資先にならないわけではない。ドットコムバブルの時代、ビジネスモデルに欠陥があったペッツドットコムなどは失敗したが、インターネットを通じた商取引は最終的に繁栄した。同様に、ハイプや市場の失敗にかかわらず、今日の新しいテクノロジーは前進を続けている。

 メタバースに話を戻すと、没入型ストリーミングのプラットフォーム、VRヘッドセット、触覚グローブなど、メタバースに関連するテクノロジーに対象を絞った企業が成功を収めている。

 たとえば、没入型仮想環境は、警察がディエスカレーション(被疑者を落ち着かせる技術)や危機介入技術を訓練するのに役立っている。また、製造業では、安全保護眼鏡のレンズの中に視界をさえぎらずに工程指示を投影する実験が行われている。メタバースで一般向けの商品やサービスをどのように収益化するかを市場が吟味している間に、こうした隣接分野における実験がすでに企業に実質的な利益をもたらしている。

 このような新しいテクノロジーが成功したのは、目的が明確であり、ターゲットを絞った十分な調査がなされたからだ。そして、非デジタルな方法よりも価値を提供している点が成功に欠かせない要素である。単に目新しさを求めたテクノロジー投資ではない。こうした価値の高い技術活用は、ほかでは実現できないような新たなビジネスチャンスやイノベーションをもたらしている。

 新たな技術トレンドが出現すると、多くのリーダーは「FOMO」(Fear of Missing Out=取り残される不安)に陥り、その新技術を使って「何でもよいから」すぐにつくるよう要求する。これは、無駄な投資、機会の損失、新たな局面への幻滅につながる。新しいテクノロジーは重要であり、注意と投資を要するが、マネジャーはハイプの犠牲にならないように辛抱強くあらねばならない。責任ある検討がカギとなる。


"Innovating in Uncertain Times: Lessons from 2022," HBR.org December 20, 2022.