コミュニケーションスタイルを
状況に適応させる

 これらの調査結果は、具体的なコミュニケーションを批判するものだと思われるかもしれない。しかし実際は、具体的なスタイルと抽象的なスタイルの両方に価値がある。重要なのは、男女を問わず、どのようなタイミングでこれらのスタイルを使い分けるかだ。

 キャリアの初期で、より細部に集中して仕事を遂行する時は、具体的なコミュニケーションが非常に効果的だ。しかし、キャリアを重ね、そういった仕事をほかの人に任せるようになると、戦略的な思考やビジョンが重要になり、抽象的な表現がより効果的になるかもしれない。

 自分が何をするかだけでなく、なぜそれをしなければならないのか、時間をかけて説明する場面もあるだろう。何が必要で、何を省いてもよいのか、慎重に見極める必要がある。具体的な内容を示す動詞を、あまり具体的に示さない形容詞に置き換えて、事実だけでなく、さらに大きな目的やビジョンを語る抽象的な言葉にしよう。

 ただし、シニアリーダーであっても、具体的な話し方が有効な場面はある。具体的な言葉は、親近感信頼の醸成に役立ち、リスクや不確実性に直面した時に人々を安心させることができる。たとえば、管理職は、特にリモートワークの場合、チームがつながっているという感覚を構築するには具体的な話し方が有効かもしれない。

 クラウドファンディングのキャンペーンでは、起業家が具体的な言葉を使うほうが成功するという研究結果もある。権力や決断力を示すより、信頼やつながりを育むことが重要になる時もあるだろう。そのような文脈において、リーダーは、聞き手がイメージしやすい明確で活きいきとした言葉を使いながら、ビジョンを実行する戦術的な説明をして、具体的な内容を語り、行動計画を議論する必要がある。

 もちろん、ふだんの話し方をより抽象的に、あるいは具体的に変えることは、話し方を戦略的に変えることに慣れていない人には難しい。話し言葉を調整するのに苦労しているなら、まず文面によるコミュニケーションを見直すことで、自分のコミュニケーションのパターン(無意識なものが多い)を理解でき、別のアプローチが有効かどうかを判断しやすくなるだろう。

自分のコミュニケーションバイアスを確認する

 リーダーは、状況に応じて自分のコミュニケーションスタイルを適応させることで利益を得られるかもしれないが、すべての人(特に権力のある地位にいる人)が聞き手としての自分のバイアスを意識することが重要になる。スタイルにこだわるあまり、話の中身や話している人の能力が見えなくなってはいけない。

 より具体的なコミュニケーションを取る人が、抽象的な思考や戦略的な思考で劣るというわけではない。多くの女性は、個人的な経験と深く根づいた社会的規範から、必然的に実行力と詳細な注意力を通じて自分の能力を示そうとして、具体的な話し方が基本になっている。ただし、具体的な言葉を使うことが、リーダーシップの欠如を意味するわけではない。リーダーシップの潜在能力を評価する際は、抽象的な話し方に対する自分のバイアスを認識して、積極的に公平な見方をすることが重要だ。

 そのためには、たとえば、抽象的な話し方と具体的な話し方の両方を明確に奨励する。管理職や投資家は、プレゼンテーションの定型や筋書きを用意して、プレゼンターにエグゼクティブサマリーやビジョンステートメントを共有させたうえで、詳細まで話すように促す。就職の面接や政治家の討論会では、候補者が大局的なビジョンを語って具体的な内容を話すように、面接官や司会者が意識して促す。女性は「どのように」、男性は「なぜ」を重視する傾向があるが、有能なリーダーは両方を明確に表現できなければならない。

 スピーチをする、会議を進行させる、メールを送るといった時に、自分がどのくらい抽象的な言葉を使っているかを意識することはないだろう。しかし、筆者らの研究が示唆する通り、こうしたコミュニケーションスタイルの微妙な違いが、相手の受け止め方に大きな影響を与える。

 さらに、この違いは性別と関係がある。男性の話し方はリーダーシップを連想させやすく、その結果、男性は潜在的にリーダーとして見られる傾向があるのだ。すべての人が潜在的なリーダーシップを発揮できるようにするには、こうしたバイアスが存在することを認めて、話し方によって話されている内容がかき消されないようにしなければならない。


"Research: Men Speak More Abstractly Than Women," HBR.org, December 02, 2022.