このパターンは、一連のフィールド調査でも見られた。起業家が投資家に事業計画を売り込むピッチのパターンを分析したところ、やはり男性創業者は抽象的で大局的な言葉を使う傾向があるのに対し、女性創業者はどのようにビジネスを構築するかという具体的な行動や計画を説明する傾向が見られた。たとえば、ある女性創業者は自身のスタートアップを次のように紹介した。

「(当社は)ローンチに向けて迅速に動いています。当面は、技術提携の交渉と市場の需要調査に注力します。クリスマスの発売に向けて、秋に大学でプログラムを試験的に実施し、そのプロセスを繰り返し行うために、夏は製品開発に費やす計画です」

 一方、男性起業家は事業の原動力となるビジョンを強調する傾向があった。

「この情報化社会において、キャリア設計が多くの人にとって極めて困難なプロセスであるのは、驚くべきことです。一流大学でも学生は追い立てられるように就職し、何が待ち受けているのかという情報もありません。プロフェッショナルの人脈づくりは非効率的で、知識の発見は仲間の知っていることに限られます」

 状況によって、どちらのコミュニケーションスタイルも効果的であることは確かだ。しかし、力やリーダーシップを相手に感じさせたい場合は、抽象的な表現のほうが有効であることが多い。

抽象的な話し方は
力を持つ人だと感じさせる

 ある実験で、架空のジュースに関する2つの文章を参加者に見せた。どちらも似たような情報を伝えているが、一つは形容詞が多い抽象的な表現で(たとえば「モジョ・ジュースは果汁100%で防腐剤フリー」)、もう一つは動詞が多い具体的な表現になっている(たとえば「モジョ・ジュースは果汁だけでつくられていて、防腐剤をいっさい使用していません」)。

 そして、それぞれの文章の話し手に関する印象を尋ねると、ほとんどの参加者が抽象的なことを言う人のほうが具体的なことを言う人より力がありそうだと感じていた。また、抽象的な話し手は管理職に、具体的な話し手は作業員にそれぞれ向いていると考え、どちらをCEOに選ぶかという質問には、82%が抽象的な話し手を選んだ。

 フィールド調査からも同様の結果が得られた。投資家によると、抽象的な言葉を使う起業家は「大きな成長の可能性」や「高い拡張性、長期的な収益の可能性」を持っているように見られるのに対し、具体的な言葉を使う人は長期的な成長を志向していないと見なされて、最終的に資金調達の可能性が低くなるという。

 興味深いことに、これらの研究を通じて、参加者は一般的に、より抽象的な話し方を能力の指標とは考えていなかった。しかし、抽象的な話し方は、力やリーダーシップとの関連が先行研究で明らかになっている2つの重要な能力、すなわち大局的な思考と決断力を示していると受け止められていた。

 抽象的な言葉を使うと、日常の些細なことから距離を置いた視点を持っており、その人が大きな力を持つに違いないと思わせる。さらに、具体的な事実を述べるだけでなく、その事実が何を意味するのか、なぜそれが重要なのかという解釈を提供すると、リーダーに求められる重要な意思決定や判断に対する意欲を連想させる。