小売業のサプライチェーンで過剰在庫と在庫切れリスクを下げる方法
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サマリー:近年、市場における需給バランスが不安定化し、過剰在庫と在庫切れの発生する確率が高まっている。それによって、小売業者やサプライヤーの粗利益が減少するという事態が起きている。本稿では、過剰在庫や在庫切れに... もっと見るよるリスクを低下させるために筆者らが「フローキャスティング」と呼ぶ方法を紹介する。これは、最終消費者の需要を予測し、そこからはじき出した予測をサプライチェーン全体で活用する方法である。 閉じる

需給の不安定化が
サプライチェーンに及ぼす悪影響

 サプライチェーンの危機はいまも続いており、小売業者やそのサプライヤーの成功を脅かしている。需給バランスが不安定化することによって、過剰在庫(顧客がほしがらない物を抱える)と在庫切れ(顧客のほしい物が欠品になる)の起こる確率が高くなるからである。そして、その影響は甚大である。在庫切れは小売業者の売上総利益を減少させる。また過剰在庫は、運が良ければ小売業者の被る損失は粗利益の50%だが、多くの場合、すべての粗利益を失わせることになる。

 しかし、筆者らが「フローキャスティング」と呼ぶ方法を使うと、過剰在庫や在庫切れによる利益の押し下げを避けられる。フローキャスティングは、単なる予測ではない。

 まず小売店レベルでエンドユーザー(つまり消費者)への売上げだけを予測し、その予測をもとにサプライチェーンの上流にいる関係者すべての需要や在庫のフローを計算する。長期の計画期間(通常52週間かそれ以上)にわたって、小売業のサプライチェーン全体でどれほどの在庫や補充、スペースやリソースが必要かが計画できるよう設計されているのだ。カギとなるのは、予測が毎日あるいは毎週更新され、それがサプライチェーンのすべての関係者に同時に伝わるという点である。

 最終消費者の需要を予測し、そこからはじき出した需要予測をサプライチェーンの全関係者が使う方法は、今日における大半の小売業界のサプライチェーン管理方法とは異なる。

 現在、サプライチェーンの関係者のほとんどにとって、需要とは直接の顧客からの発注であり、最終消費者がどれだけ必要としているかは考慮していない。その結果、真の消費者需要を反映していない需要を追求することになる。その追求が、ブルウイップ効果(鞭打ち効果)と呼ばれるサプライチェーン上の需給の乱高下を招き、過剰在庫や在庫切れを引き起こすのである。

フローキャスティングの仕組み

 フローキャスティング計画を作成する手順は、次のとおりである。

1. 小売業者が、すべての店舗におけるすべての商品に関する今後1年、またはそれ以上の長期間、消費者売上げを数量で予測する。この予測には、計画されている販売促進やほかのマーケティング戦略による売上げ増を含める。

2. 小売業者の売上予測は店舗にある現在の在庫から差し引かれ、予想在庫水準やサプライヤーからの発送必要量を計算するために使われる。小売業者はサプライヤーとその結果を共有する。

3. その予測をもとに、サプライチェーンの関係者全員が仕入れ、製造、輸送、保管、および製造の最終地点から売上げの最終地点までの配送に必要なすべての労働力、スペース、設備、資本資源を計算する。

 このプロセスは手作業でも実行可能だが、自動化できればそれに越したことはない。まず小売業者から始め、その後サプライチェーン全体で実行するとよい。とはいえ、小規模なサプライヤーの中には、計画で使うスプレッドシートに予測数量を入力するだけのところもあるだろう。

 このシステムにより、小売業者やそのサプライヤーは新しい形の可視性が得られる。日次または週次で、商品および場所ごとの今後の需要、供給、在庫の予測が可視化されるのである。これが小売業者やそのサプライヤーに及ぼす影響は大きい。

 フローキャスティングは、サプライヤーが自分の取引先である小売業者の必要量を予測する作業をなくすだけに留まらない。サプライチェーン全体にわたって統一された需要と供給のデータが、毎日同期されるようになり、過剰在庫や在庫切れを大幅に減らし、ブルウイップ効果をかなり小さくできる。