将来、売上げや在庫に影響を及ぼすかもしれない状況があれば、それはフローキャスティング計画に反映される。たとえば、小売業者が新店舗をいくつか立ち上げることを計画しているとしよう。その場合、個々の新店舗には商品ごとの売上予測があり、それがフローキャスティング計画に含まれているはずだ。

 フローキャスティングは、小売業者が主導して行うのが最も望ましい。しかし、小売業者の主要サプライヤーが率先してフローキャスティングを開始することもできる。

 たとえば、ある大手ディスカウントストア(小売業者)の主要サプライヤーが始めた実例では、その小売業者のPOS(販売時点情報管理)の売上げデータを使って(小売業者の協力を得て)、その小売業者の各店舗から配送センター、サプライヤーの配送センターから工場までに及ぶフローキャスティングを構築した。すると、この小売業者のサービス率は改善し(97%から99%へ)、過剰在庫が20%減少したのである。

リスクとコスト

 フローキャスティングに転換する際のリスクは、これがプロセスとマインドセットの変更であることを会社が理解できない点である。この転換は、単なるテクノロジーの改善に留まらず、チェンジマネジメントの取り組みとして扱われるべきである。そのためには小売業者とサプライヤーのネットワーク内にいる人々が教育や研修、コーチング、支援を受ける必要が出てくる。人々は学びながら徐々に新しい働き方に慣れるようになる。

 この転換には通常2~3年かかる。なぜなら、大規模な小売業者には、何百もの主要サプライヤーがいて、全体で何千ものサプライヤーがいるからである。したがって、フローキャスティングを実際に運用する前にシミュレーションすべきだ。消費者売上げの予測のみに基づいたシステムの予測がどのようなものかを小売業者と主要サプライヤーの関係者全員が見られるようにすることで、システムが実際に運用された時の驚きを最小化できるよう、みんなに時間を与えるのである。

 フローキャスティングを始めるための投資には、新しいテクノロジー、システム統合、データの正確性のための作業(過去の異常な売上げが計上された期間や天候による営業休止のような出来事があった時のデータの調整)、このアプローチの概念に関する人々への教育、プロセスを実行するためのテクノロジーの使い方の研修、その支援などにかかるコストが含まれる。筆者らの経験から言うと、このコストは年間売上高の0.25%未満だ。

フローキャスティングを導入した実例

 プリンセス・オートは、カナダ全土に50以上の店舗を持つ、自動車改造用部品とそれに関連する製品や工具を扱う小売業者である。

 フローキャスティングを早期に導入したことで、プリンセス・オートの店舗は毎日97%から98%のサービス率(顧客が買いたい品物を見つけられる率)をたえず達成している。2015年時点では92%で、そこから向上し続けているのだ。プリンセス・オートはプロモーション期間中でも、また重要な点として、国内と国外のサプライヤーが納入した製品の両方で、このような高いサービス率を維持している。

 フローキャスティングシステムを初めて使った2016年に、同社の売上げは10%以上増加した。これはサービス率が向上したためである。一般的に在庫パフォーマンス指標が2%から3%上昇するごとに、売上げは最低1%上昇するということを筆者らは発見している。さらにプリンセス・オートの店舗と配送センターの両方で、在庫が10%減少した。

 フローキャスティングに関心のある小売業者は、この方法を採用した場合の影響と利点、課題について評価するところから始めるとよい。フローキャスティングはサービス率を向上させ、過剰在庫を減少させるため、この方法を採用することで新たに生み出される利益は、そのコストを大幅に上回る。これが顧客の満足度向上にもつながるのだ。


"A Better Way to Match Supply and Demand in the Retail Supply Chain," HBR.org, December 01, 2022.