筆者らは、ビジネスに特化した世界最大のソーシャルプラットフォーム「リンクトイン」のデータを利用することで、この問題を解決した。とりわけ、今日のレコメンドエンジンの標準になっているA/Bテストを活用した。
このようなレコメンドアルゴリズムを動かす人工知能(AI)モデルは、常に改良されているため、新しいバージョンはすべてのユーザーに問題なく機能するように、ランダム化実験によって厳しくテストされている。デジタルプラットフォームの規模を考えると、これらの実験は通常、数千万人のユーザーを対象とする大規模なものになる。
筆者らは、リンクトインでユーザー間の新たな「つながり」づくりを勧める機能「もしかして知り合い?」のアルゴリズムで、この種の実験を複数行い、そこから得られたデータを分析することにした。
5年間にわたる実験では、世界2000万人以上のユーザーのネットワークで推奨されるつながりの構成を、ランダムに変化させた。この期間中に、20億の新しいつながりが生まれ、60万の新たな雇用が生まれた。偶然にも、これらの実験では推奨されるつながりの強弱が適度に散らばることになり、それらを活用することができたのである。
筆者らが因果分析を行った結果、転職が成功する可能性を最も高めるのは弱いつながりであることが確認された。これは、グラノヴェターの論文「弱い紐帯の強さ」で示された仮説の因果関係を検証する初の大規模実験であると同時に、この理論には複数のアップデートが必要であることが示された。これらは現実の世界で、いくつかの重要な意味を持つ。
第1に、新しい仕事を見つける時には、「やや弱いつながり」が最も役立ち、「最も強いつながり」は最も役立たないことがわかった。具体的には、共通の友人が1人だけの「極めて弱いつながり」と比べて、共通の友人が10人いる「やや弱いつながり」が新たにできることで、転職が成功する確率は2倍近く高まる。
第2に、弱いつながりは総じて重要だが、それは特にITやソフトウェアの導入、機械学習とAIの統合、そしてロボット化のレベルが高い業界で重要になる。これらの業界では、最先端技術が急速に進化する傾向があり、その進歩すべてについていくことが成功するうえで欠かせないためである。だからこそ、新しいテクノロジーや手法の進歩に広くさらされる多様なコミュニティにアクセスできる、弱いつながりが極めて重要になる。
第3に、筆者らの分析結果からは、「リモートワークに優しい」業界では、弱いつながりが一段と重要になることが示されている。今後、ハイブリッドワークや「ワーク・フロム・エニウェア」(WFA)時代へのシフトが進む中で、弱いつながりをつくり、それを大切に育てていくことが、キャリアを成功させるうえでよりいっそう不可欠になるだろう。