インフレの時代に企業が生き残るための3つの教訓
Yaroslav Danylchenko/Stocksy
サマリー:米国は過去40年で最も高いインフレ率に見舞われている。この非常に高いインフレがもたらす人々へのストレスは、市場や社会に影響を与え、企業や経済全体に対する不満を増幅させている。しかし、こうしたなかでも企業... もっと見るがコストや価格の変動に対応し、消費者の信頼を獲得できる戦略がある。本稿では、筆者らが過去のハイパーインフレ期から学んだ3つの教訓を、さまざまな事例を交えながら紹介する。 閉じる

インフレの中で
消費者の信頼を獲得する

 過去40年間で最も高いインフレ率に見舞われているいま、企業にはコストや価格の変動に対応する戦略が必要だ。特に今回のインフレでは、価格設定の難易度が高まっている。長引くコロナ禍、ウクライナの戦争、景気後退への懸念といった極度の不安で、人々が心身ともに疲弊しているからだ。

 こうしたストレスは、市場や社会に影響を与え、企業や経済全体に対する不満を増幅させる。しかし、企業がインフレの中で消費者の信頼を獲得できる戦略はある。筆者らは、インフレが進行した時代を研究し、そうした戦略の有効性を実証してきた。

 たとえば、1980年代前半のイスラエルでは、インフレ率が数年にわたり100%を超え、1985年には430%にまで上昇した。これはハイパーインフレ(インフレ率が毎月50%を超える)と呼ばれる。近代で最悪のハイパーインフレは、1946年7月にハンガリーで発生した。インフレ率は41.9兆%、15.6時間ごとに物価が2倍になる現象が起きた。筆者らは、こうした時期に企業がどのように対応したのか、特にイスラエルに焦点をあてて研究してきた。

 過去のハイパーインフレ期から学んだ3つの教訓は、経営者、消費者、そして社会がそれぞれ抱える現在のインフレの課題に対処し、切り抜けるために役立つはずだ。企業の成長を促し、インフレが消費者に与える負担を軽減することができるだろう。

企業の「価格変更コスト」を削減する

 筆者らの調査によると、価格変更にかかるコストは、特に高インフレ環境下で企業の認識をはるかに超えて大きくなる可能性がある。筆者らは、米国の大手食料品チェーン4社で価格変更に伴う店舗ごとの平均的なコストを記録した。具体的には、毎週の価格変更プロセスの詳細な調査、ワークフロー図の分析、およびプロセスの各ステップにかかる店舗内での時間と動作の詳細な計測を、各チェーンの複数店舗で行った。

 このコストには、棚の価格表示を変更するための人件費、新しい値札の印刷と配送コスト、価格変更プロセスで発生するミスのコスト、店舗における価格変更プロセスの監督コストなどが含まれる。米国最大の食料品チェーンであるクローガーに当てはめると、同社の2757店舗の合計で、年間2億9190万ドルのコストが発生することになる。では、2008年のジンバブエのように、物価が「1日ごとに倍になる」ハイパーインフレではどうなるのか。価格変更作業は、週1回ではなく、週7回行うことになる。すると価格調整コストは年間20億4000万ドルに膨れ上がる。

 高いインフレ率に対処するには、価格調整コストを削減する価格設定プロセスが必要だ。そのためには、価格設定ルールの簡素化や新しい価格表示技術の導入が必要になる場合が多い。たとえば、イスラエルの書店は、個別の価格表示をやめ、書籍に文字コード(A、B、Cなど)を振ってグループ分けし、価格表で各グループの価格を掲示している。ブラジルでは、ある小売業者が電子棚札を使用して価格表示をデジタルで更新するようになり、何百もの商品の価格を手動で更新する人件費をなくした。

 ハイパーインフレ時のコストは、より安定した通貨で決済することによっても抑えられる。イスラエルの高インフレ期には、耐久消費財や住宅の価格をドルで表示することがよく行われた。その価格が国民の保有できる金額の法的上限を上回ることもあった。ハイパーインフレ下のベネズエラではいま、販売者が仮想通貨のP2P決済を導入しており、露天商も仮想通貨で価格表示できるようになった。プロセスを簡素化し、テクノロジーに投資し、価格の安定性を示すことで、企業は価格変更のコストを削減してインフレ圧力に対抗することができる。