成長するための余地をつくる

 この混沌とした時代にマネジメントを行うことは、新任のマネジャーはもちろんのこと、経験豊富なマネジャーにとっても困難だ。また、従業員が管理職に昇進するのは、優秀だからであり、必ずしもコーチやメンターとしてのスキルがあるからではないため、それらのスキルを身につける機会を与えることが不可欠だ。

 マイクロソフトの人材、学習、洞察担当副社長であるジョー・ウィッティングヒルによれば、同社の文化について従業員があらためて理解するために、現在、22万人いる全従業員が「3時間のカルチャー・カンバセーション」をグループで行っているという。

 このような対話で重要なのは、組織全体で直接的かつ個人的なつながりを生み出し、マネジャーの成長の機会を提供するために、人事部ではなくマネジャーが主導することだ。ウィッティングヒルの同僚の1人は、「(カルチャー・カンバセーションが)これほど大規模になるとは思いませんでした。私のチームはとてもやる気に満ちています」と話したという。

 マネジャーには、伝えるべき重要なメッセージが記されたファシリテーター向けのガイドが渡され、そこでは個人的な話をすることの重要性が強調されている。ウィッティングヒルは、そうした対話のためにマネジャーを個別に指導し、彼らが準備できるようにしている。このような人間的な触れ合いのある、価値ある対話において中心的な役割を担うことで、あらゆるレベルのマネジャーが成長することができる。

 中小企業でもこの取り組みに倣うことができる。たとえば、価値観や文化といった全体的な問題から、製品開発や営業といった具体的な問題まで、まずはマネジャーに対処してほしい問題を絞り込む。次に、マネジャーが対話を実行するための明確なプロセスを作成し、その際、あなたの価値観を指針にする。そうすることで、マネジャー、チーム、そして組織全体が一体となり、「帰属意識が生まれる」とウィッティングヒルは述べる。

マネジャーにピアサポートを提供する

 極めて優秀で、十分な訓練を受けたマネジャーでも、やるべきことは多い。不確実性が高い状況で、継続的なサポートは欠かせない。

 アップワークのヘイデン・ブラウンCEOは、特に多くの従業員がリモートで働く中、「ビジネスにおけるマネジャーのリエンゲージメントと活性化」に情熱を傾けている。

 アップワークでは、毎月ズームで「ワン・アップワーク・フォーラム」という集まりを開催し、マネジャー同士が、推進中の変革、DEI(ダイバーシティ〈多様性〉、エクイティ〈公平性〉、インクルージョン〈包摂〉)の取り組み、悩んでいることなどについて情報交換をしている。ブラウンによれば、この集まりは、率直な同僚同士の交流の場となっている。そして同時に、グループの「育成に取り組み、(グループ構成員の)声となり、擁護者になることを望む」幹部が交代でスポンサーになるという。

「グループのエンゲージメントを促し、大きな変化を経験する中でグループが助け合うのにとてもよい方法です」とブラウンは述べる。

 トップダウンのフィードバックとは異なり、ピアサポートには「多様な視点からの洞察」「安全な空間での新しいスキル実践の機会」「永続的なサポートネットワーク」など、多くの利点がある。また、マネジャーたちが共にスキルを訓練することも、能力開発の機会となる。

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 いまはマネジャーにとって困難な時期であることは間違いない。しかし、ギャラップはこう指摘している。「マネジャーは、他のどの要因よりも、チームのエンゲージメントとパフォーマンスに影響を与える(中略)チームのエンゲージメントの変化の70%は、マネジャーによって決定される」

 いまこそ、企業はマネジャーに投資し、彼らがチームとつながりを持つために必要なスキルとサポートを提供する時だ。


"To Retain Your Best Employees, Invest in Your Best Managers," HBR.org, December 01, 2022.