不況に強い企業は新規顧客の獲得よりも既存顧客の維持に注力する
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サマリー:不況期にあたり、企業はいかに既存顧客を維持すべきか。既存顧客を維持するコストに比べ、新規顧客の獲得コストは5倍という試算もあり、不況期こそ企業は既存顧客を維持することが重要だと筆者は説く。ではどのよう... もっと見るに既存顧客を維持すべきか。本稿では3つの有効な取り組みを解説する。 閉じる

困難を乗り越える企業は、既存顧客に徹底的に注力する

 市場が低迷し、通貨は弱くなり、物価は上昇している。景気悪化のきっかけは毎回異なるが、これらの現象が景気後退が近いことを示すサインであることはいつでも同じだ。新たなセールスリード(見込み客の情報)が減り始め、商談の成約率が下がり、成約までにかかる時間も長くなり、顧客離れが始まる。苦しい時期かもしれないが、過去にもあったことである。こうした状況を乗り切るための対処法も存在する。

 筆者が経営するチャーンゼロは、企業の顧客管理を支援するプラットフォームだ。その立場にあったからこそ、コロナ禍を通じて筆者は次のことがわかった。既存の顧客に徹底的に注力する企業は、混乱を最小限に抑えながら、不透明な状況を乗り切れるということだ。

 本稿では、筆者が見た3つの有効なプラクティスを紹介しよう。

顧客グループとその健全性を知る

 短期的あるいはパニック的な顧客離れを緩和するためには、不況の性質と、その打撃を受ける顧客グループを理解する必要がある。「カスタマーサクセスチーム」は、顧客が解約したり、契約を更新したり、増えたりする理由を理解する必要があるため、このデータをすでに調べていることが多い。したがって、このチームに権限と人材とテクノロジーを与えて、顧客をグループに分ける。この危機により最もダメージを受ける業界やグループに特に注目することだ。

 この方法がうまくいくことは、「アンタップト」(Untappd)から明らかになった。アンタップトは、近隣のビール好きの人や店がネットワークをつくるためのプラットフォームで、顧客である小規模な飲食店が苦しむパターンを発見した。ロックダウンが始まると、飲食業界の零細企業はあらゆるコストを削減しようとした。最も苦しんでいる顧客が誰かを知ることが、アンタップトが顧客を維持するカギとなった。

 これは、チャーンゼロが顧客に対して取ったアプローチと同じだ。コロナ禍の初期、チャーンゼロは顧客の業界、企業規模、感情、チャーンゼロの利用期間、利用度などのデータポイントに基づき、顧客を5つのグループ(「平常通り」「いますぐコンタクトが必要」「解約リスクが高い」など)に分けた。

 そのうえで、「もっとも解約リスクが高い」グループの顧客から接触を開始した。具体的には、経営が苦しいのかどうかや、我々がどのように支援すべきかを尋ねた。また、その顧客と同じ業界に所属する他社が、どのようにこの危機に対処しているかを話し、チャーンゼロはできるだけ柔軟に対応することを決めた。こうしたディスカッションの結果、顧客があれこれ要求してきた場合、たとえ疑わしくても嘘という証拠がなければ好意的に応じた。支払いを少し待ってほしいと頼まれた場合も、「イエス」と答えた。

再現可能な解決策を構築して解約を阻止する

 ひとたび解約リスクが最も高い顧客を特定したら、その顧客を支援する方法を見つけなければならない。この時一番よいのは、個々の顧客に合わせた解決策を見つけることだが、同じグループに属する顧客は、同じようなニーズを持っている可能性がある。そのような場合は、再現可能な解決策を見つけて実行することが大いに理にかなっている。

 たとえばアンタップトは、最もリスクの高い顧客向けに「休会制度」を設けて、ロックダウンが終わって店を再オープンできる時まで、サブスクリプションを一時停止できるオプションを提案することで、解約を減らした。ロックダウンが解除されると、休会中の顧客は簡単にサブスクリプションを再開できるだけでなく、ロックダウン中にアンタップトが開発した非接触メニューなどの新機能を活用できるようになった。