長期的な活用を視野に入れて、プロダクトの利用レベルをモニタリングする

 たとえ健全な顧客グループだったとしても、予想外の出来事のためにそのグループが苦境に陥ると、解約に踏み切る可能性がある。このような顧客にアプローチすることは、最もリスクが高い顧客グループにアプローチすることと同じくらい重要だ。

 そのためには、プロダクト使用度を注意深くモニタリングし、使用度が低下している顧客にいち早く接触することだ。カスタマーサクセスチームはこうした顧客に、不況からどのような影響を受けているかを尋ね、リソースや専門知識を提供すべきだ。

 リスクの高い顧客の維持という短期的な側面に重点を置いている時でも、長期的な目標を見失わないように注意したい。すべての顧客があなたの会社のプロダクトの恩恵を最大限に受けられるようにすることは、不況を乗り切る取り組みの中核に位置付けられるべきだ。

カスタマーサクセスチームは、成功に必要なリソースを備えているか

 先行きが不透明性な状況では、CEOが自社のカスタマーサービスチームに、顧客の獲得と維持に必要なリソースを与えていることが重要になる。チャーンゼロの調査では、ほとんどの会社はそれを行っていない。

 カスタマーサクセスチームをきちんと機能させるためには、資金と、業務スキルとデータスキルのある人材を投入する必要がある。好況時はこうしたリソースは潤沢にあるが、不況の時は制約があり、激しい奪い合いが生じる。それでも、既存顧客の維持に注力すれば効果が得られることを、筆者は見てきた。不況時には、既存顧客の維持活動は、新規顧客の開拓よりも大きな打撃を受けにくい。新規顧客を1人獲得するコストは、既存顧客1人維持するコストの5倍であるという経験則は、不況時にはますます顕著になる。新規事業が低迷し、見込み客の獲得が難しくなれば、その差は5倍どころではなくなるだろう。

 既存顧客の維持に注力するためには、他の部門、場合によっては営業からもリソースを移すことが必要になるかもしれない。新規事業のリソースを減らすことが怖いのもわかる。その一方で、カスタマーサクセスチームは、トレードオフを受け入れなければならない。リソースを増やしてもらった以上は、顧客維持率を上昇させ、期待に応えなくてはならない。カスタマーサクセスチームにより高い目標を設定して、責任を持たせよう。そして投資利益率(ROI)が上昇するのを見守るのだ。


"In a Downturn, Focus on Existing Customers - Not Potential Ones," HBR.org, December 05, 2022.