
病気で有給休暇も取れない
米国の深刻な人手不足
米国の鉄道会社が従業員に対する有給病気休暇の付与を拒否したことで、米国経済の驚くべき脆弱性が露呈した。鉄道会社は、従業員が病気になった時に有給休暇を取れるだけの人員を配置していないのだ。議会はストライキを阻止するために介入したが、この労働争議の根本的な原因である「組織的な人手不足」は今後も続くだろう。
これは、企業が長年にわたって効率化とコストダウンに執着し、何万人もの従業員を削減した結果である。そして、製造業、ヘルスケア(医療機関、介護施設、薬局など)、小売業を含む他の分野でも広まっている誤った考えが露呈した一例と言っていい。
この「悪い職場」のシステムは、労働者だけでなく、その企業の商品やサービスを利用する顧客や企業にとっても望ましいものではない。鉄道会社の場合、労働者の健康、乗客とそのコミュニティの安全、顧客サービスの質にリスクをもたらす。
筆者らの組織、グッド・ジョブズ・インスティテュートは、企業が新たなオペレーションのシステム「『よい職場』戦略」(グッド・ジョブズ・ストラテジー)を採用し、労働者が優れた顧客サービスを提供できるようにする支援を行っている。その基本的な要素の一つが、「余裕のあるオペレーション」だ。
こうしたオペレーションシステムを取り入れている企業は、顧客満足度や売上高、収益性が高く、継続的な改善を行っていることが、筆者らの調査で明らかになっている。
人手不足がもたらすコスト
従業員に仕事を完了するのに十分な時間がない場合、ミスや手抜きは避けられない。これは、サービスの低下や遅延、在庫の取り違え、無駄遣い、レジ待ちの長い行列、顧客の問題を解決する能力不足など、業務遂行能力の欠如という形で表れる。このような欠陥は、売上げを減少させ、コストを増加させる。従業員やマネジャーは、休暇を取ることができず、燃え尽き症候群に陥りがちだ。
これらはすべて、従業員の離職率を高める要因になる。離職率が高く、人員が不足し、業務遂行能力が低いシステムのもとでは、現場のマネジャーが常に目先の問題に対処することになる。適切な人材を採用し、教育する時間がなく、さらなる問題につながってしまう。
筆者らがあるサービス業の企業に協力した際、人手不足で冷凍食品や乳製品を冷蔵庫に移動できず、商品が荷台に置かれたまま傷んでしまったことがあった。介護施設では、人手がないために入居者がトイレに行くのに45分も待たされるのを目撃したことがある。
小売業者が店舗の従業員数を決めるのに、マネジメントの判断ではなくスケジューリングソフトウェアに依存した結果、顧客の数を実際より少なく予測し、レジに長い行列ができることも少なくない。また、十分な数の従業員を雇うことができなかったために、マネジャー自身がレジ打ちをしなければならないケースも数多く見てきた。
このような環境では、従業員が仕事のパフォーマンス向上ではなく、問題の解決に時間を注がねばならず、彼らの士気を低下させる。それだけではない。顧客も不快にさせてしまうのだ。