2. ロシアがウクライナに侵攻し、マクドナルドがロシアから撤退
ロシアのウクライナ侵攻は、エネルギーや食品、その他の市場に甚大な衝撃を与えた。これを受けて、液化天然ガス(LNG)など化石燃料の代替品への短期的な投資が進んだが、EUではクリーンエネルギーへの移行が加速しているようだ。
企業に対して、ロシアでの事業停止を求める圧力が高まった結果、この戦争は企業のサステナビリティにも直接的に影響している。
侵攻から数日で、何十社もの大企業がロシアでの事業を縮小した。また、数週間遅れて、極めて象徴的な動きもみられた──マクドナルドが、成功を収めたことで知られる(収益の7%を占める)ロシア市場から撤退したのだ。
この例は、今日のビジネスにとって透明性が不可欠であること示す格好の事例だ(再度、7を参照)。イェール大学経営大学院チーフ・エグゼクティブ・リーダーシップ・インスティチュートのジェフリー・ソネンフェルド教授は、各社のロシア事業への対応をまとめたリストを作成し、A(完全に決別)からF(深入りしている)の段階別に評価をつけた。企業の対応に世界の目が注がれている。
3. EVを中心とするクリーンテックが大きな転換点を迎えた
ブルームバーグNEFの報告書は、テクノロジー採用曲線に関するデータに基づき、「クリーンエネルギーには転換点があり、87カ国がそこに到達している」と宣言した。
それを実感しているのが自動車業界だ。ほぼすべての主要自動車メーカーが、今後10~20年以内に内燃機関の製造を中止する予定だ。たとえば、フォルクスワーゲンは2033年以降、欧州ではEVしか製造しないと言っている。
再生可能エネルギーの成長を大規模かつ何度も過小評価してきた国際エネルギー機関(IEA)も、クリーンテクノロジーの予測を大幅に前進させた。IEAによれば、発電セクターにおける化石燃料の使用はピークに達した可能性が高く、風力と太陽光は毎年、過去の天然ガスの実績を上回る電力を生産している。また、再生可能なエネルギー源は2025年までに石炭を上回り、経済全体における化石燃料の使用量は2030年代にピークを迎えるという。
こうした成長にとってブレーキとなりかねないトレンドが、2つある。1つ目は、あらゆるセクターにとって悩みの種であるサプライチェーンとインフレの問題によって、再生可能エネルギーと電気自動車用電池の価格が初めて上昇に転じたことだ(ただし、相対的な優位性は維持している)。
2つ目は鉱業の問題だ。鉱業領域では、クリーンテクノロジー分野で求められる銅やリチウムなどの金属需要の急激な伸びに対応できない可能性があると警告が出されている。
4. 女性やLGBTQ+コミュニティの権利のためにビジネス界が立ち上がった
複雑な社会で企業活動を行う難しさを象徴する2022年のエピソードを一つ挙げるなら、それはウォルト・ディズニーをめぐる出来事だろう。
ことの発端は、フロリダ州議会が、小学校でジェンダーや性的指向について教えることを制限する「ゲイと言うな」法案を可決したこと。LGBTQコミュニティは、ゲイやトランスジェンダーの子どもたちや教師、親たちがこれまで以上に生きづらくなるとして、法案への反対を訴えた。
フロリダ州の大企業であるディズニーは、LGBTQコミュニティの人々をすすんで雇用し、また彼らを顧客としてきた。同社のCEOは当初、法案について沈黙を守っていたが、従業員が声を上げた結果、追い込まれる形で反対を表明した。
すると、恐ろしい事態が待ち受けていた。フロリダ州知事と議会がディズニーの財務状況を狙い撃ちし、同社に付与していた税制上の優遇措置を剥奪したのだ。
この出来事は、ESGや、社会的立場を明らかにした企業は、右派から政治的動機に基づく反発を受けやすいということを示す重要な例だ(5参照)。
ディズニーよりもはるかに注目を集めたのは、米連邦最高裁のドブス判決だった。中絶を憲法上の権利と認めたロー対ウェイド裁判を覆し、女性が自身のリプロダクティブヘルスをコントロールする権利を否定した判決である。
この判決が下されると、多くの企業が傍観者の立場を脱し、従業員に対して、中絶が合法とされる州への旅費などの支援に乗り出した。また、ロシアのケースと同様に、中絶の権利を擁護する企業の行動リストも公開された。ただし、筆者のクライアントの一部も含め、よりプライベートな形で従業員に支援を提供する企業も多い。