2023年のESGとサステナビリティをめぐる課題はどのように進展するのか
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サマリー:本稿は、サステナビリティや環境、社会、ガバナンス(ESG)の観点から、2022年に起こった出来事を10のテーマにまとめて振り返る。そのうえで2023年を予測する。若者主導の気候変動対策への抗議活動や、労働者確保の... もっと見る問題、イーロン・マスクによるツイッター買収に象徴される超富裕層による権力行使方法への疑問など、筆者は2022年に起こった課題の一部が発展することを予測している。 閉じる

企業が社会から期待される役割が変化した

 2022年もまた、人類とビジネスにとって激震続きの一年だった。インフレ、サプライチェーンの問題、欧州での80年ぶりの戦争勃発をはじめ多くの難題に直面し、あらゆる人に影響が及んだ。

 人類の存亡に関わる課題(ビジネス界にも問題解決に尽力すべきとの要請が強まっている)はいちだんと深刻化した。欧州やインド、南極、北極での記録的な熱波、米国を襲った大規模な山火事、国土の3分の1が浸水したパキスタンの洪水など、気候変動に起因する異常気象が頻発した。地球上に暮らす人類の数については、80億人という象徴的な数字を記録した(核融合エネルギー開発にブレークスルーが起きても、これだけの人口すべてを救えるわけではない)。

 サステナビリティ、あるいは近年ESGと呼ばれる分野においては、より積極的な取り組みを求めるビジネス界への圧力が急速に強まった。いまや企業は、気候変動や格差から人種やジェンダーの問題、LGBTQ+の平等、民主主義、フェイクニュースまでありとあらゆるテーマについて立場を表明するよう求められている。重要な環境問題や社会問題、地政学的な問題と無縁ではいられないのだ。

 このように、社会において企業に期待される役割が変化したことが、筆者から見た2022年の最大の出来事だ。

 本稿では、2022年に始まった、あるいは進展のあった10の大きなテーマ別に、この変化を読み解いていく。

1. 選挙は極めて重要であり、政策もまた重要だ

 気候変動関連の最大の話題──つまり、人類にとって最大のニュース──は間違いなく、ブラジルの大統領選でルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルヴァが返り咲きを果たしたことだ。ブラジルはジャイール・ボルソナロ大統領の元で強引な森林伐採を加速させ、「地球の肺」と呼ばれる熱帯雨林アマゾンではCO2排出量が吸収量を上回る転換点が近づいていた。

 その結果、気候変動のスピードを鈍化させるのはいちだんと難しくなった。だが、ルーラはアマゾンの保護を公約に掲げている。

 気候関連で最大の政策的勝利は、米国でインフレ抑制法(IRA)が成立したことだ。この法案には、クリーンエネルギーへの税控除、EV(電気自動車)へのインセンティブ、クリーンテクノロジー・マニュファクチュアリングへの資金提供など、気候変動対策の優先課題への巨額の支出が含まれている。これによって、アメリカではCO2排出量を2030年までに40%(05年比)削減する道筋がついた。

 この驚異的な投資は、各業界を揺るがし、脱炭素化を加速させ、ニューヨーク・タイムズ紙が指摘したように「米国のエネルギー生産のあらゆる側面に影響を与える」だろう。

 この法律が成立したのはひとえに、過去の選挙で民主党が上院での可決に必要な50議席を確保していたおかげだった(共和党の上院議員50人は全員がIRAに反対票を投じた。また、ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、議会共和党は石油・ガス業界に法案に反対するよう働きかけていた)。2022年の中間選挙では、気候変動問題がようやく真の争点に浮上し、73%の米国人がIRAを支持した。

 一方、EUでは先日、域外からの輸入品に炭素税を課すことに合意した。この決定も、世界中の産業に多大な影響を与え、世界的な「炭素価格」の確立に役立つだろう。

 また、欧州議会は2035年までに、域内で販売されるすべての新車とバンをゼロ・エミッションにするよう義務付ける法案も可決した。

 世界的な政策レベルでは、11月のCOP27(国連気候変動枠組条約第27回締結国会議)は低調に終わったが、その後、生物多様性に関する国際会議で、地球上の陸域と海域の30%以上を保護区とするという画期的な目標が掲げられた。

 ビジネス界に対しては、自社のロビー活動やポリシーを、サステナビリティの大きな目標や価値観と一致させるよう求める圧力が高まっている。米国では、一部の企業が、大統領選に不正があったとの主張を非難し、民主主義を守るために声を上げはじめた。また、海運大手のマースクのように、気候変動政策などの見解の不一致を理由に、業界団体から離脱する企業もある。

 しかし、残念ながら、より一般的なのはトラック業界のようなケースだ。トラック業界はEVへの移行という壮大な目標を掲げているが、業界団体はゼロ・エミッション車を推進する規制に反対している。

 7つ目のテーマで紹介するような透明性の高い世界では、こうした状況を続けることは不可能だ。