冷淡かつ頑なになってはいけない

 世間から誹謗中傷を受けた時の感情的な疲労は、大きな打撃をもたらす。苦境に立たされた時、メンタルヘルスの専門家に頼って自分のケアをすることも大切だ。感情面のウェルビーイングを管理する手段を持たないと、人との関係にも態度にも悪影響が及ぶ。自己防衛の手段として引きこもり、人に対して頑なになることもある。

 デニスはこのような後悔を話してくれた。

「例の『矢の的』発言は覚えていますよ。あんなことは言わなければよかった。当時は、すっかり無神経になり無感覚になっていたのです。でも、それは本来の私ではありません。妻は私を支えようとしたのに、拒絶されたと感じていました。エグゼクティブコーチ(筆者のこと)が私の変化を指摘しようとしたのに、私は聞く耳を持たなかった。こういう時に備える術はないのかもしれませんが、後から振り返ると、もっと違った形で、自分の感情的な反応に対処できたのかもしれません」

真実の種を見つける

 どこかの時点で、あなたはこの体験から何を教訓とすべきかを自問しなくてはならない。ほとんどの場合、手厳しい世間の追及の中にも、知恵を引き出せるような真実の種があるからだ。

 デニスの会社は、誠実さと優れたサービスを提供する揺るぎない文化を築いたことにプライドを持っていた。だがその結果、倫理とコンプライアンスに対する取り組みについては、いささか自己満足に陥っていた。トップから強い方針を打ち出し、リーダーがロールモデルとなることへの期待を明白にすれば、それでよいと思っていたのだ。会社は急速に成長し、当然、文化も同じスピードで成長するはずという思い込みがあった。しかし実際は、文化が希薄化し、やがて問題を生む土壌がつくられていたのだ。

 非難の矢面に立つ修羅場にあっても、一歩下がって、この体験からどのような教訓を学べるのか、客観的に考えてみよう。リーダーシップの発揮の仕方を変える必要があるのか。根拠のない思い込みがなかったか。当たり前だと思っていなかったか。ていねいに検証することで、重要な洞察が得られるだろう。

行動を起こし、報告する

 当初の激しい批判の熱が冷めれば事は収まり、新たなニュースが発生すれば自分は注目されなくなると思いたいかもしれない。しかし、それは愚かな思い違いだ。今後、何をするか、何を変えるか、どのようにして問題の再発を防ぐかについて、あなたは必ず公に約束すべきである。人々は忘れないし、あなたがどのように進歩するかを知りたがっていると思っていたほうがいい。

 この点で、デニスには光るものがあった。彼は会社の中核的な価値観を伝えるという公約にいっそう力を注ぎ、会社の隅々にまでその文化が行き届くように努めた。また、目標に達していない部分も含めた進捗状況を、3カ月ごとに従業員や株主、メディアに報告した。1年後、会社の評判は以前にも増して確固たるものになり、デニスは尊敬されるリーダーという地位を取り戻した。

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 世間に広まった批判の矢面に立つことは、すべてのリーダーにとって悪夢のような体験だろう。悪と見なされた行動について、従業員が怒りと不寛容を表明するにつれ、批判の激しさは増す一方のように思える。「これはビジネススクールでも、ほかのどこでも絶対に教えてもらえないことです」とデニスは皮肉交じりに言う。

「とはいえ、リーダーになりたければ、こうした追及を受ける事態に、ずっと前から十分に備えておかなければなりません。きっと乗り越えられるし、勝利することさえできますが、それでも準備は必要です」

 あなた自身のために、そして組織のためにも、非難の矢面に立つ状況への備えをしておこう。あなたの指針となる価値観を定義して磨き上げ、伝えたいメッセージのリハーサルをし、危機をうまく乗り越えたリーダーや乗り越えられなかったリーダーの経験から学ぶ。そうした経験がどのような代償を払ったかを理解できれば、同じ轍を踏まずに済むだろう。

*プライバシー保護のために人名を変えています。


"How Leaders Should Handle Public Criticism," HBR.org, December 12, 2022.