チャットGPTの登場がAIの転換点である4つの理由
Tetiana Lazunova/Getty Images
サマリー:オープンAIが公開している「チャットGPT」がいかに変革をもたらすのか。本稿ではその理由を4つ掲げる。筆者はいま起きている変化の重要性を理解し、いち早く行動につなげた企業が競争優位を獲得すると指摘する。

変革の可能性を示す4つの視点

 2022年11月末、オープンAIは「チャットGPT」(ChatGPT)をリリースした。同社のAIシステムの最新版を用いて明快な言葉でコミュニケーションができる、優れた新型チャットボットだ。

 以前からGPTには複数のバージョンがあったが、今回のモデルは閾値を超えた。ソフトウェアの開発、ビジネスアイデアの創出、結婚式における乾杯のあいさつ文作成など、さまざまなタスクにおいて本当に役に立つ。前世代のシステムでもこれらは技術的に可能だったが、アウトプットの質は一般的な人間がつくったものよりもはるかに劣っていた。新しいモデルは格段に、そしてしばしば驚くほどに優れている。

 端的に言えば、これはかなりの重大事である。この変化の重要性を理解していち早く行動を起こす企業は、大きな優位を得るだろう。チャットGPTはこの種のチャットボットの第1号にすぎず、まもなく多くの同類が登場して毎年飛躍的に能力を高めることを考えれば、なおさら重要である。

 チャットGPTは一見すると、賢いおもちゃのように見えるかもしれない。技術的には、以前のAIシステムとは仕組みが異なるわけではなく、パフォーマンスがより優れているだけだ。リリース以降、奇妙でばかばかしい目的で使う例がツイッターにあふれた。ダイエット計画の作成児童書の執筆ビデオデッキの中からピーナッツバターサンドを取り出す方法を欽定訳聖書の文体で教えてもらう、などなどだ。

 おかしな使用事例のほかにも、懐疑的になる理由はある。重要なことは、長年にわたる過剰な期待に反して、AIがデータ分析以外のほとんどの用途において、ある程度しか機能しないということだ。AIは車の運転がほどほどに上手だが、時折ほかの車に激突する。質問に対しておおむね優れた答えを出すが、結果を完全に捏造しているように思えることもある。

 とはいえ、掘り下げて検証してみると非常に大きな可能性を持っていることが明らかだ。詳しく確認すればするほど、このモデルによって何が変わったのか、そしてなぜこれが転換点だと思えるのかがよくわかるだろう。

 現在すべての人に公開されているチャットGPTは、ある重要な転換を実現した。これまでAIは主に、失敗すると高く付く問題を対象としてきた。時折失敗しても安く済み許容されるタスク、あるいは専門家が失敗ケースと成功ケースを容易に区別できるタスクはあまり対象ではなかった。

 時折事故を起こす車は許容できない。だが、素晴らしい絵も下手な絵も描くAI芸術家は許容できる。危険を伴う反復的なタスク(フォークリフトの運転など)ではなく、創造と表現を伴うタスク(マーケティングコピーの作成など)にAIを応用することで、新たに多くの用途が生まれる。

 どのような用途が生まれ、それらがなぜ非常に重要なのか。

 第1に、このAIは、しっかりとした文体の英語(またはフランス語であれ中国語であれ、ユーザーが選ぶ言語)による高度に洗練された文章群を生み出せるだけでなく、指示に従ってコンピュータのコードブロックを生成することもできる。

 その様子をイメージするための参考として、筆者が担当するアントレプレナーシップの授業ではこのようなことがあった。学部生たちにこの新しいAIシステムを紹介したところ、筆者が話を終える前に、学生の一人がこれを使い、初見のコードライブラリを用いてスタートアップのプロトタイプのコードを作成した。学生たちは、4時間かかるプロジェクトを1時間もかからず完了してしまった。

 これは大きな変化である。圧倒的な高速化は、コード生成AIに関するランダム化試験でも確認されている。少し前までは大勢でやっていた仕事を、いまでは一人の優秀なプログラマーが、正当な働き方で遂行できるのだ。そして近いうちに、プログラミングの経験がない人でも有効なコードを作成できるようになる。