アメリカ人は中国人と衝突する

 中国に出張する場合、ほとんどの欧米人がリポート用紙1枚ほどに列挙された簡単な心得に目を通す。その心得とは、つまり「名刺を山ほど持参する」「通訳者を同伴する」「簡潔な言葉を使う」「スーツはなるべく地味なものを」といった事柄である。

 この手のアドバイスは無駄ではない。おかげで門前払いを食わずに済んだり、運がよければ最初の取引にこぎ着けたりもしよう。時代も変わり、いまでは欧米企業が中国企業と何年にもわたって取引できるようになった。ただし、中国企業と親密な関係を築くには、このようなビジネス・マナーだけで事足りるわけではない。

 我々はここ20年にわたって、数十社に及ぶ企業、また数千人に及ぶアメリカと中国両国の経営幹部たちを調査してきた。その結果からも、紋切り型のマナーを守るだけでは、せいぜい最初の取引を成約させるのが関の山であることがわかった。実際、アメリカ企業と中国企業のビジネス関係が崩壊するのを、幾度となく目の当たりにしてきた。

 そもそもの原因はアメリカ人の側にある。中国の文化や価値観は奥が深く、とても一見しただけではわからない。そのような文化的背景を理解できていないアメリカ人の場合、往々にして交渉の席上で面食らい、その対応に窮することになる。

 アメリカ人と中国人が交渉において、相互理解に至るのはまことに困難である。何しろアメリカと中国では、交渉のスタイルが水と油ほどに違うのだから──。

 それゆえか、アメリカ人の多くは交渉相手の中国人を──残念ながら──非効率的で回りくどく、なかには本当のことを言わないとさえ見ている。一方、中国人はアメリカ人を──こちらも残念ながら──攻撃的で、人間味に欠け、すぐに冷静さを失うと見ている。

 両者の違いは文化の違いにある。ただし、これをうまく処理しながら前に進むことができれば、双方が利するかたちで事業を成功させ、良好な関係を築くことも十分可能である。

 話を先に進める前に、ここでいくつか注意点を挙げておきたい。第1に、これから我々は欧米人の代表としてアメリカ人を例に挙げ、彼らと中国人の関係について述べる。

 これは、我々が主にアメリカ企業やその経営幹部を対象に調査を行ってきたからだけではない。アメリカ人は欧米人のなかでも、とりわけ個人主義の傾向が強く、はっきりと自己主張するからである。そのため交渉で対立しやすい。