職場の世代間ギャップを乗り越える3つの戦略
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サマリー:私たちは現在、歴史上初めて5つの世代が職場で共存する時代を迎えている。世代間の断絶は深刻な問題だが、さまざまな年齢層の従業員がともに働くことで、企業のパーパスが組織全体で共有され、業績も向上することが... もっと見る明らかになっている。本稿では、筆者らが提唱する、多様性を活かして社員の定着率と生産性を高め、イノベーションを実現する3つのアプローチを紹介する。 閉じる

世代を超えたコラボレーションの難しさ

 先日、米中西部に本拠を置く金融サービス企業のHR責任者と話をする機会があった。彼女によれば、年配の社員が、ミレニアル世代やZ世代の社員の考え方や行動に戸惑っているという。たとえば、リモートワークへのこだわり、気まぐれなワークスタイル、思い通りに仕事が進まない時に不満を隠さない態度などだ。逆に若い世代は、ベテラン社員には柔軟性と創造性が欠けており、会社のリーダーの言葉を額面通りに受け止め、意思がないと感じている。

 世代間の差異は、組織におけるヒエラルキー型の文化によって、いちだんと拡大してきた。年齢層が高い上級社員には、自分が中心となる会議、自分のオフィススペース、みずから築いた顧客関係があり、世代を超えたコラボレーションが実際に行われたとしても、彼らが会話を支配してしまう。

 その結果、若手社員はやる気を失い、年配の社員は成長が滞り、顧客には質が低く包括性を欠いたソリューションしか提案できない。経営幹部は次世代を担う人材を惹きつける能力こそ、会社の成長と魅力の証だと訴えるが、中間管理職はそれによって生じる軋轢に苦しめられてきた。

 世代間の断絶はいまに始まった問題ではないものの、私たちは現在、歴史上初めて5つの世代が職場で共存する時代を迎えている。しかも、ポストコロナ時代のいま、そうした断絶がもたらす悪影響は、深刻さを増す一方だ。

 企業のリーダーは、パーパスの実現のために働きたいという従業員の要求と、市場での成功に必要な業績とのバランスを取ろうとしている。だが、この2つは反対の方向に力が働いているように思える場面もあり、そのような時、リーダーはパーパスよりも業績を優先したり、自社の掲げるミッションに表面的な注意しか払わなかったりする。

 筆者らは、数十年にわたる学術研究と応用研究、さらに世界有数の先進企業での実践や、アドバイザーとして仕事をすることで、多くの経験を重ねてきた。そうした知見から、さまざまな年齢層の従業員がともに働くことで、企業におけるパーパスが組織全体で共有され、ビジネス上の業績も向上することが明らかになった。世代間の摩擦を活用して創造性を引き出せる企業は、社員全体にパーパスを浸透させたうえで、イノベーションを加速させ、顧客と絆を強めることで発展を遂げているのだ。

エイジダイバーシティがもたらす問題点と将来性

 見た目や話し方の違いは目に付きやすいことから、エイジダイバーシティ(年齢の多様性)は「私たち対彼ら」という思考を生みやすい。人間には、自分と同じ集団の一員と思える相手を信頼し、仲間になろうとする性質がある。リーダーは、社員が異なる年齢層の人々を理解し、受け入れられるよう、共通のアイデンティティと世代を超えた理解の醸成に積極的に取り組むべきだ。

 他者の異なる視点を理解するよう取り組むことで、共通の認識が生まれ、それが効果的なコラボレーションの土台となる。そうした知識によって、集団に価値判断の枠組みが与えられ、状況や判断を正しく解釈できる。また、互いをより理解できるようになり、効率性が大幅に向上するのだ。

 それにもかかわらず、賢明で善意に満ちた人でさえ、エイジダイバーシティをうまく活かせないケースが多い。その原因は、彼らが世代間ギャップを戦略的に活用する術を知らないことにある。

 リーダーは多様な年齢層から成るプロジェクトチームを立ち上げたり、休日の持ち寄りパーティに全員を招待したり、交流やブレインストーミングを楽しめる共有スペースを用意したりしている。だが、そうした自由放任なアプローチでは、メリットよりも互いの違いが際立ってしまうため、結局うまくいかない。

 本稿で紹介する3つのアプローチを実践すれば、年齢の違いに価値を見出せるだけでなく、その多様性を活かして社員の定着率と生産性を高め、一貫性あるイノベーションを実現し、顧客との関係を深めることができる。