分散型AIによって競争環境が変わりつつある

ビナヤック・HV、シンガポール

 2022年はAIの「分散化」が大きく前進した。分散化とは、これまで中央集権的な専有データセットを大量に保有する企業のみが独占していた高度なAI技術を、多くのユーザーが利用できるようになるトレンドだ。

 Stable Diffusion(ステーブル・ディフュージョン)やChatGPTなどの製品によって、従来ならば膨大なデータセットを持つ組織のみが利用できたディープラーニングのモデルに、より多くの企業と個人がアクセスしてやり取りできるようになった。その影響は、検索の高度化や開発者の生産性向上などを含め、非常に多岐に及ぶ。

 マッキンゼー傘下のAIサービス会社であるクァンタムブラックの分析によれば、2023年には、この分散化によって複数の業界に破壊的変化が生じる初期兆候が見られそうだ。まずはエンタテインメント、ゲームやメディアなど、これまで新規テクノロジーの浸透が早期に見られた業界から始まる可能性が高い。

 企業にとって2023年の大きな課題と好機は、分散型AIの能力をいかに活用するか、そしてこのテクノロジーが自社のビジネスモデルにとって何を意味するのかを考えることだ。

 CIOとCTOが焦点とすべきは、(オープンAIやスタビリティAIなどの)API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の導入を容易にして広範なアプリケーションとプロセスに「知能」を組み込むために、アーキテクチャーをどう改変するかである。この機能は、たとえば利用できるコードやコードライブラリを自動的に提案したり、開発を加速するためにコードを自動生成したりできる。技術スタックのあらゆる部分に、AIを組み込むことを目標とすべきだ。

 これを実現するには、十分なリソースを実験に割り当てる必要がある。一流のイノベーター企業は収益の1~5%を、莫大な利益を生む可能性のあるイノベーションに充てている。企業が予算引き締めに傾く中、実験の予算を維持することは特に重要となる。なぜなら、景気低迷期に効果的にイノベーションを行うことができれば、景気回復時に急成長する態勢が整うからだ。

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 2023年の先行きを告げるシグナルを読み解くのは難しい。その点は、過去に行われてきた先を見通す試みと同様だ。とはいえ、明らかなことがある。企業が年頭にテクノロジーをめぐる問いにどう向き合うかは、翌年を迎えた時点で自社の前途がどれほど明るいかを大きく左右するのだ。


"Where Is Tech Going in 2023?" HBR.org, January 06, 2023.