コンテンツは過剰供給の時代に

阿迦井 柊
アクセンチュア
ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ シニア・マネジャー
Shu Akai

通信・メディア業界/小売業界を中心に、成長戦略策定、新規事業立案・実行支援、全社改革などを推進。足元では、特にゲーム業界を中心にデジタル活用・組織変革といったテーマに注力。

 経済産業省の「コンテンツの世界市場・日本市場の概観」によると、フィジカルなコンテンツ市場は世界的に縮小傾向にある一方、デジタルコンテンツは年率13.4%で拡大を続けています。

 デジタル化が加速すると同時に、グローバルでのコンテンツ供給網の整備も進んできました。また、UGC(User Generated Contents)の拡大により、誰もが制作者・発信者になれる時代となり、コンテンツ供給量は年々増加しています。

 その結果、コンテンツの供給量に対して、ターゲットとするユーザーが投下できる時間とお金が不足する事態に直面しているのです。

 一つの例としてApp Storeで展開されているゲーム関連のアプリ供給数を見てみると、2011年から2021年にかけて年率27.1%で増加していることがわかります。

 一方で、ユーザーがコンテンツに投下できる時間と支出は横ばいであり、「コンテンツの過剰供給」に陥っているといえるでしょう。

コンテンツの開発コストは高騰

 各分野におけるコンテンツ開発コストの高騰も見逃せないトレンドです。

 特に、映像やゲームの分野では、デバイスの高性能化やCGなどの技術進化によってユーザーにより没入感のある体験を提供できるようになった半面、開発コストは右肩上がりの傾向にあります。

 たとえば、ゲーム1本当たりの開発コストは、2000年代初頭には数億円程度でしたが、2010年代後半になると、1本当たり数百億円に上る事例も複数登場しています。

 映像の分野も同様です。たとえば、ディズニー/ピクサーの1作品当たりの製作費を経年で分析してみると、1995~1999年は平均約0.8億ドルであったのに対し、2015~2019年は約1.8億ドルと、大きく増加しています。

データと資本をてこにシェアを拡大する海外企業

 企業にとっては、競合コンテンツが増えたことで、“ヒット”の確率が減る一方、開発コストは増大し、失敗した時の経営リスクも大きくなってきました。

 こうした市場環境において、海外の成功企業はどのような方法で収益を拡大しているのでしょうか。

 一つは、徹底的なデータ活用です。たとえば、ゲーム産業におけるグローバルトップ企業であるTencentは、ゲームだけでなく、自社エコシステム内で展開する漫画や小説など多岐にわたるエンタメサービスの利用データを分析し、新しいコンテンツの企画・開発や、プロモーションに役立てています。

 もう一つは、M&Aです。ユーザーに対して訴求力のあるIP(コンテンツ著作権)や、ヒットの予兆が見え始めたコンテンツを青田買いすることで、成功の確率を高めるとともに、開発期間を圧縮できます。

 事実、コンテンツ業界におけるM&A件数は2005年以降、年平均2.6%で増加しており、その増加率は全産業のM&A件数の伸び率(年平均1.6%増)よりも高くなっています。

 世界的に良質なコンテンツクリエイターが不足する現代においては、M&AはIPだけでなく、優秀な人材を獲得する戦略的なツールともなっています。

 海外の成功企業は、データをもとに有力なコンテンツを見極めるとともに、資本力も活かして外部のIPや人材を手中に収めることで、成長を継続しているのです。