(2)オウンドコミュニティを通じて質の高いユーザー接点を構築する

 SNS、2次創作のマーケットが拡大した現代において、企業はコンテンツを世に送り出した後も、継続的にユーザーとの関係性をメンテナンスする必要があります。

 こうした中で、自社独自のユーザー接点を持つ、「オウンドコミュニティ」の重要性が高まっています。

 たとえば、『荒野行動』などの人気ゲームの運営元で知られる中国のNetEase Gamesは、自社が運営する30以上のゲームタイトルについて、ユーザー同士が相互に交流できる統合型プラットフォーム「大神」を展開しています。

 ユーザーは「大神」を起点に、ゲームのダウンロードや、プレー動画の視聴、攻略記事の投稿、他ユーザーとの会話など、多岐にわたる活動を行います。2022年末の時点で、「大神」のダウンロード数は3億を超えるなど、多くのユーザーに愛好されています。

 NetEase Gamesでは、「大神」を通じて効果的に運営タイトルを訴求するとともに、拾い上げたユーザーの声や、行動データ(投稿量、動画の視聴時間・傾向など)を分析し、ゲーム開発や販促に役立てています。

 また、ユーザーとの直接的な接点を持つことは、コンテンツ供給のバリューチェーン上における交渉力を強化することも意味します。

 2020年に『フォートナイト』を運営するEpic Gamesが、Appleを提訴したことは記憶に新しいですが、直接的なユーザー接点の獲得により中間流通を排除することで、収益性と事業の安定性を高めることも可能です。

 一方、オウンドコミュニティで成果を出すためには、ユーザー同士の交流を促すインセンティブや、画面上の心地よいUI/UX(顧客接点、顧客体験)の実現、不適切な発信のモニタリング、アクティブ率を高めるイベント設計など、多岐にわたる業務を並行して行う必要があります。

 中途半端な展開は、逆にユーザーからの信頼を失うことにつながりかねません。専門的なノウハウを持つ人材と、十分な経営資源を投下したうえで、計画的に展開を進めることが肝要です。

(3)組織デザインをモダナイズし、専門性と業務効率を両輪で強化する

 ゲームをはじめ、日本のコンテンツ製作現場では、プロジェクトごとに企画、開発、マーケティング、予算管理、品質管理などの各種機能を抱えるケースが少なくありません。

 こうした組織モデルは、チーム全体がコンテンツの文脈を理解してスムーズに業務を進められるメリットがある一方、各現場にノウハウが閉じてしまい、俯瞰的な意思決定が難しくなるというデメリットもあります。

 こうした背景から、先行企業では各事業やプロジェクトの上長とは別に、機能軸でのリポートラインを持たせるCoE(Center of Excellence)型の組織モデルを志向する動きも見られます。

 海外のある大手ゲーム事業者では、各事業で共通する機能をミドルオフィスに集約することで、事業をまたいだノウハウの集積と機動的な意思決定ができる組織構造を実現しています。

 こうした機能集約には、業務効率の向上に加え、予算やリソースに乏しい新規事業でも共通機能を活かして効果的に開発を推進できるというメリットがあります。

 また従業員のモチベーション改善や、定着率向上に寄与する効果も期待できます。コンテンツ業界を志向する人の多くは、クリエイティブな業務に従事したいという意向を抱いています。

 一方で、現在の製作現場は分業制が色濃く、オペレーショナルな業務も少なくありません。その結果、やりがいを求めて他社に転職する人も年々増えている状況です。

 実際に、産業別の大卒以上の3年以内の離職率を見てみると、コンテンツ業界が属する「生活関連サービス・娯楽業」は46.5%と、「宿泊・飲食サービス業」の51.5%に次ぐ第2位となっています(厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況統計」〈21年10月〉より)。

 自社の強みとならない部分は、積極的にアウトソーシングなども活用しながら、クリエイターが本来やるべき業務に集中できる体制をつくることが肝要であるといえます。

日本のコンテンツ業界の復権に向けて

 日本企業の強みである現場の創発力に、データや科学的な経営手法を組み合わせることができれば、グローバルでの存在感はいっそう高まるはずです。

 一方で、過去の成功体験に裏打ちされた組織文化・オペレーションモデルを変革することは容易ではありません。

 当然のことながら、経営者自身が変革の必要性を再認識し、将来の目指したい姿やその実現に向けたロードマップを描き、現場に落とし込むことが求められます。

 時間がかかるからと手をこまねいている間に、海外企業は武器となるユーザーデータ、IP、クリエイターを着々と手中に収めています。

 過去の成功に囚われて“ゆでガエル”状態にならぬよう、先々を見据えた変革の設計が、日本のコンテンツ産業には求められているといえます。

 

【執筆協力】
笹山佳澄
アクセンチュア ソング本部 マーケティングトランスフォーメーション スペシャリスト

菅原裕太
アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ コンサルタント