日本企業に求められる「クリエイター至上主義」からの脱却
従来の日本企業の強みは、現場クリエイターの創発力と、それを最大限に活かすボトムアップ型のマネジメント体制でした。
こうした強みは現代でも大きな武器になる一方、時として“クリエイター至上主義”の文化が、日本企業の足かせになっている部分も見て取れます。
コンテンツがあふれユーザーの嗜好も多様化する中で、クリエイターの創造性だけに依存して成功し続けることは至難の業です。また、開発コストが増大する中で、トップダウンでのより厳格なポートフォリオ管理も求められています。
こうした中、日本企業が世界の舞台であらためて大きな存在感を発揮するためには、クリエイターの創発力と、科学的な経営手法の融合にポイントがあると考えます。
ここでは、日本企業が取り組む余地のある3つのアクションをご紹介しましょう。
(1)360度データを活用し、経営とクリエイターの意思決定を高度化する
国内のエンタメ・コンテンツ企業の経営陣と話をすると、口を揃えてデータ活用に関する課題に言及されます。
キーワードは、「社内データの統合活用」と「外部データの積極活用」です。
前述したTencentでは、共通ユーザーIDを軸にコンテンツ別の収益額や利用状況(月/日当たりユーザー数・ダウンロード数・滞在時間・課金額など)を、事業横断でマネジメントが把握できるようにしています。
これにより、ジャンル(ゲーム・小説・映像など)をまたいだ有力IPの横展開や、各事業への追加投資・撤退の経営判断に役立てています。
また、外部のSNSなどからも情報を収得し、自社コンテンツの評価やユーザーの嗜好を分析しています。一例として、出資を通じて関係を強化したゲーム動画配信サービスとも連携し、ここから得られたデータの有効活用も目論んでいるようです。
一方で日本企業の多くは、特定の事業やプロジェクト内での活用に留まり、データを共有財産として全社的に活用するレベルには踏み込めていません。
アクセンチュアにおいても、こうした課題を持つ国内のクライアントとデータ活用の高度化の検討を加速しています。
たとえば、社内の各事業に散在するデータの統合管理に加え、YouTubeやTwitterといった外部のSNSからリアルタイムで自社コンテンツへの反応を収集できる基盤の構築を進めています。
また、整備したデータ基盤にAIを組み込むことで、ヒットの予兆検知や、将来の収益予測精度の向上、それに基づくポートフォリオ管理の高度化に役立てようという試みを進めています。
ヒットの有無によって業績の浮き沈みが激しいコンテンツ産業において、先を見通す精度を少しでも高めることは非常に重要な課題です。データから導出される示唆を一つの材料に、クリエイターの直感や経験則を掛け合わせることで、より正しい事業判断が可能になると確信しています。