一方、売り手が商材を差別化していたとしても、事業の衰退に直面している顧客が「より少ないリソースでより多くの成果を」という思考になることは避けられない。売り手は顧客がこの難局を乗り切れるように、より多くの価値を絞り出す方法について、先を見据えた話をすべきである。
顧客のニーズに耳を傾けて理解することにより、顧客の新たな価値の源泉に応じて商材を再定義できる。より短期の契約やスリム化したソリューション、顧客に好都合な支払い条件を提供するのもよい。また売り手は、顧客が少し先を見て、将来何がもたらされるのかを予測するのを手助けすることもできる。
売り手の商材の市場競争力が低い場合は、景気減速が顧客に与える影響にかかわらず、特別な関係、活動、価値の源泉に集中することが最善のアプローチである。売り手と買い手の関係が盤石な時、信頼が顧客価値の重要な源泉になる。売り手は、信頼性と一貫性のある提供力を強調するとよいだろう。
それぞれにチャンスがある
グーグルと同様、ほとんどの企業が複数の事業や部門を抱えており、その中には好調なものもそうでないものもある。現在の状況下で、強い事業にとっては、弱体化したライバルから市場シェアを奪い、他社が人員削減する中で優秀な営業人材を獲得するチャンスになる。一方で、競争力の弱い事業においては、不況は選択的な人員削減やポートフォリオの合理化など厳しい決断を実行するチャンスになる。また、贅肉を削ぎ落とし、管理業務の肥大化を取り除く絶好の機会でもある。
たとえば、グーグルはノートPC「Pixelbook」の新機種の開発を断念するとともに、社内インキュベーター(新規事業支援組織)「エリア120」の予算の削減、クラウドゲーミングサービス「Stadia」の終了に踏み切った。ただし、さまざまな削減を実施する場合であっても、上位の顧客や優秀な営業担当者はけっして手放してはならない。
また、チャンスは、営業担当者と顧客の関係によっても異なる。すでに強固な関係が確立している場合もあれば、まだ関係がない場合もある。先行きが非常に不透明な状況では、買い手はリスクを回避する傾向があり、現在のサプライヤーでニーズが満たされていれば、変更をリスクと見なすだろう。新しいサプライヤーを採用することで、うまくいっていたものがうまくいかなくなる可能性があるからだ。したがって、既存のサプライヤーのほうが有利である。
加えて、既存のサプライヤーには、顧客にアクセスしやすいという大きな利点がある。特にサービス業界では、売り手は顧客と長く付き合うことで、新たなチャンスを発見できる。その一方で、もし現在のサプライヤーでニーズが満たされていなければ、買い手ははるかに低いコストでサービスを提供する別の有望なサプライヤーに、さっさと切り替えるだろう。
成功する売り手には、一つの共通点がある。顧客との関係を状況に合わせて適応させられる、強力なデジタルのバックボーンを持っていることである。データに基づくハイブリッド型の営業戦略(デジタル、バーチャル、対面による顧客とのつながりを戦略的に組み合わせる戦略)は、持続的な成功に欠かせない。ある領域では効率とコスト削減を追求するため、デジタルチャネルをさらに活用して、単純な販売業務を自動化できる。
また、別の領域では有効性とインパクトを追求するため、対面での販売を増やす必要があるかもしれない。いずれにしても、データ分析を活用すれば、より賢明にリソースを配分することができるだろう。
"Setting Your B2B Sales Strategy in a Downturn" HBR.org, January 11, 2023.