
価値重視型の資本配分
この10年ほどの間、金利はほぼゼロに近い水準に張り付いていて、資本が円滑に移動し、企業経営者たちはこぞって、夢のように壮大なプロジェクトへ資金を拠出したがった。この種の投資が多ければ多いほど金融市場にとっては好ましいように見えた。壮大な夢を持っているリーダーやベンチャー企業、そして夢のあるコンセプトに対して、資金を拠出することで測り知れない恩恵をもたらすと期待できたからだ。
しかし、時代は変わった。金利──資本の配分を経済の現実に即したものにする「錨」の役割を担うものといえる──が猛烈な勢いで高まった。この新しい状況に、市場は失神しそうになっている。多くの企業リーダーは、資金の拠出に関する過去の約束を振り返り、「なんてことを約束してしまったんだ」と後悔し始めている。
資本の配分を深く考えずに行うと、時に悪い結果を招く場合がある。事業が失敗したり、会社が破産に追い込まれたり、レイオフや資産の償却を実行せざるをえなくなったりするといったことだ。こうした失敗が起きると、復活への道筋はしばしば難しいものになる。
しかし、その復活へのプロセスを助け、さらには将来後悔してしまうような事態を回避するために有益な思考法がある。それは、資本の配分を決定する際に、言ってみれば「価値重視」の発想を採り入れるというものだ。
そのような考え方は、ウォーレン・バフェットの育ての親として知られるベンジャミン・グレアム流の投資法というイメージが強いかもしれないが、ビジネスの分野でも極めて役に立つ。この思考法を実践することにより、ジャンルを問わず、汎用性があり、理性的で、規律のある資本配分の枠組みを得ることができる。その枠組みは、現在のような時期にとりわけ有益なものといえるだろう。
しかし、今日のビジネス界でこのようなアプローチを実践している企業はあまり見かけない。この10年間、リスクをおそれない姿勢が当たり前の時代が続いた結果、こうしたアプローチは次第に廃れてきた。言わば「ムーンショット型」(実現は極めて困難だが、実現すれば社会に大きなインパクトをもたらせる取り組み)のアプローチが近年主流になり、脇に押しやられてしまったのだ。
以下では、価値重視型の資本配分の5つの特徴を、ムーンショット型の資本配分と比較しながら紹介する。
リスク思考とリターン思考
価値重視型:まずリスクについて考える
まず、「救いようがないほど物事が裏目に出るとすれば、どのような事態に陥るのか」と考える。そのうえで、直ちにこう問いかける。「その場合に、挽回不能ですべてが終わってしまうような損害を負わずに済むための措置は講じてあるか」
ムーンショット型:まずリターンについて考える
まず、「目を見張るほど好ましい結果になるとすれば、どのようなことが起きるのか」と考える。そのうえで、直ちにこう問いかける。「その場合に、大きな成果を手にできる準備はできているか」
警戒心と壮大なビジョン
価値重視型:安全のためのゆとりを設ける
理にかなった検証可能な分析の結果、妥当性が明らかな場合に限って、資本を投じる。その際、ある程度のエラーが生じても問題ないようにゆとりを織り込むこと、そして、浮世離れした楽観的な見通しを前提にしないことを重んじる。投資家のウォーレン・バフェットはこう述べている。「橋をつくる時は、重量1万ポンドのトラックしか通行させないとしても、3万ポンドの重量に耐えられるように設計すべきである」
ムーンショット型:ビジョンの力を重んじる
測り知れない未知の可能性があり、世界を根本から変える力を持っている未来志向のアイデアに力をそそぐ。そのようなビジョンを実現できるのであれば、現時点での常識や分析は大した問題ではない。
社会の潮流
価値重視型:社会の潮流は無視
ビジネス界の最新の流行に乗りたいという誘惑をはねのける。群衆と別の道を歩む勇気を持つ。正しいとわかっているのであれば、ほかのすべての人がやっているのとは正反対に思えることでも実行する。
ムーンショット型:布教活動に努める
人々の興奮や信じる気持ち、「乗り遅れることへの恐怖」を煽り、多くの人に大きなビジョンを受け入れさせる。群衆を鼓舞して、自分たちの後をついてくるように、あるいは自分たちと一緒に伴走するように促す。