
低リスクで大きな利益を出すために着目すべき10領域
企業がカスタマーエクスペリエンス(CX)ツールに多大な労力と資金を注ぎ込んでいるにもかかわらず、顧客満足度の低下は続いている。米国顧客満足度指数(ACSI)のデータによると、満足度は過去約20年間で最低のレベルだ。顧客センチメントも、20年で最低である。現在の顧客中心のエコシステムに生じた、こうした負の力学は私たちに問いかけている。いったい何がうまくいっていないのか。また企業はそれを修正するために何ができるのだろうか。
一言で言うなら、企業は素晴らしい顧客体験をつくり出さなければならない。顧客は企業を、そのライバル企業と比較するだけではない。業界における最高の企業やブランドと比較する。だが、満足度は全体的に低下しているのだ。はたして、企業は顧客満足のどの領域に対して戦略的に取り組めば、より低いリスクでより大きな利益を上げられるのだろうか。
筆者らは、数百万人の顧客データを分析したACSIの研究と、拙著The Reign of the Customer(未訳)の執筆のために実施した研究に基づいて、この問題に答えを出した。ACSIは過去30年にわたり、米国で一定の市場シェアを持つ企業が販売するブランドの質に関して、主要な顧客満足度の指標(因果関係の評価基準)として利用されてきた。
以下では、顧客を満足させ、より低いリスクでより大きな利益を生み出すために着目すべき、10領域を紹介する。
顧客満足度は戦略的資産
ACSIの定義では、顧客満足度は企業の戦略的資産であり、最適化すべきものである。満足度は最大化すべきものではなく、無視してもいけない。肝要なのは最適化である。企業は品質や価値、クレーム処理などを組み合わせて顧客満足という期待に応えることによって成長する。顧客の期待や企業のリソースに対して満足度を最適化することに焦点を当てるべきである。
「顧客満足度の最適化とは何か」を理解することは大切である。顧客満足度と市場シェアの間には、複雑な負の関係があるからだ。小さな企業においては顧客満足度が高まると市場シェアは伸びる。ところが、市場シェアが拡大するほど、高い満足度を維持することは難しくなる。一般に市場シェアが大きくなると、顧客基盤の構成も顧客の行動も多様化するためだ。
顧客が期待するものを理解する
顧客は企業が用意する体験に対して、どのような要求を持っているのだろうか。最初に「期待値の高騰」という誤解を指摘しておこう。ACSIのデータによると、顧客の期待は過去12年間で、マクロレベル(業界・企業全体)において比較的安定し、100ポイントの尺度でスコアは79~82である(最高の期待は100)。現在、BMWやメルセデス・ベンツ、トヨタ自動車など自動車業界の企業では、対応すべき顧客からの期待が常に平均よりはるかに高く(90以上)それを管理しなければならない。
業界全体での期待は安定しているにもかかわらず、多くの企業は、より高みを目指し、常に顧客の期待を超えようとしがちである。今後もそのような方向性で顧客の期待に対応していくのだろうか。実際には、この考えには欠陥がある。「常に期待を超える」という戦略を持続するのは不可能であるため、企業はそうした約束をすべきではない。企業は現実的な目標の下で、顧客に素晴らしい体験を提供して喜ばせることができるし、そうすべきなのである。