地道に続け、高いロイヤルティを目指す

 購入するブランドや製品、サービスに対する顧客ロイヤルティは、過去12年間で向上している。興味深いことに、世代別のコホート(共通の属性を持つ集団)の中で、ミレニアル世代(1981~1996年生まれ)は、縮小しつつある沈黙の世代(1928~1945年生まれ)に次ぐ、最も忠実な顧客である。グーグルとパブリックスは力点こそ大きく異なるが、ともに顧客ロイヤルティが高い(過去12年間の平均値のレンジは73~77)。

 ロイヤルティを獲得する努力は、どの世代や業界でも大きな力になる。ACSIのデータによると、問題が生じてクレームを訴えた時に上手な対応を受けた顧客は、平均よりもロイヤルティが強くなる。ほぼ完璧なクレーム処理は、トラブルがなかった場合よりも強いロイヤルティを生み出すことが少なくない。ただし、そのためには点と点を正確に結ぶ「因果結果」のダイナミクスが必要だ。粒度の粗い評価では同等の信頼性と有効性を発揮できない。

顧客満足度が財務を牽引する

 顧客満足度は、企業の戦略的資産と見なして最適化すべきものである。最大化すべきものではないが、もちろん無視してはならない。これは本稿の初めに指摘したことだ。ただし、顧客満足度は企業の財務業績に影響を与えてこそ、戦略的資産になる。多くの科学的研究を通して、顧客満足度と財務業績の因果関係は圧倒的に強いことがわかっている。

 過去30年間のデータで証明されているように、顧客満足度は株式市場の成績の肯定的な予測因子であり、S&P500指数よりも確実である。顧客満足度は、企業にとって魅力的な数多くの会計・財務成績の因子に影響を与える。たとえば、生産性、市場シェア、収益、売上げの成長、キャッシュフロー、収益性、投資利益率(ROI)、資本コスト、株価、株主価値、株式市場リスクなどである。

企業と顧客のつながりを修復する

 現在、多くの企業が最高顧客体験責任者(CXO)や顧客体験マネジャー(CXM)を置いている。こうしたリーダー職の存在は、企業が顧客体験の測定や監視、対処に注力していることを示す。正式な職務が設置されていなくても、企業のブランドや製品、サービスへのカスタマージャーニーが購買と定着のプロセスの重要な側面であることに変わりはない。

 企業はカスタマージャーニーの全過程を追跡して、ペインポイント(顧客の悩みの種)や喜びの瞬間を探す。顧客体験管理の最終目的は、顧客満足度とロイヤルティの向上だが、大切なのは適切な状況で適切な対応をすることである。マネジャーは顧客の期待や知覚価値、満足、ロイヤルティを過大評価し、顧客のクレームを過小評価する傾向がある。情報通信大手のエクスフィニティ(コムキャスト)は、品質と満足度の面で、マネジャーが考える顧客の期待と実際の顧客の期待との隔たりが最も大きい。

科学的評価基準でエコシステムを知る

 世界はますますグローバル化し、相互につながり、人口も増加している(80億人超)。人口の増加は規模を問わず、すべての企業にとって、活気ある国際市場での潜在顧客の増加を意味する。これは、新型コロナウイルス感染症で多少遅れたとはいえ、急ピッチで進んでいる(わずか15年で世界人口は90億人に達する見込みである)。

 顧客基盤が拡大すると、顧客のニーズとウオンツがますます多様化するため、概して満足度は下降する。どうすれば、この法則に対抗できるのだろうか。その答えは、企業が顧客体験の科学的評価基準に基づいて顧客中心のエコシステムを調整することにある。すなわち、企業は顧客満足度を理解し、構築し、その向上を実現しなくてはならない。今日、アップルは強力なエコシステムの接続性と、市場における自社のブランドや製品、サービスに対する因果関係の理解に関して模範的である。しかし、アップルにとっても、どの企業にとっても、価値提案は絶え間ない挑戦なのである。


"10 Ways to Boost Customer Satisfaction" HBR.org, January 12, 2023.