3. CEOと取締役会のリーダーは、互いの役割を明確に理解しているか

 取締役会のリーダーの役割が明確になっていないと、さまざまな業務執行上の問題が持ち上がるおそれがある。たとえば、取締役会とCEOの間に亀裂が生じたり、取締役会がCEOの決定を後から批判したりするケースもありうる。筆者らが知っているいくつかの企業では、アクティビストがCEOとは別に非業務執行取締役会議長にメールを送り、その会社の経営に影響を及ぼそうとしたことがあった。

 取締役会のリーダーが担う役割を明確化するために、取締役会は前出のエドワード・ブリーンのやり方を参考にするとよい。ブリーンは、複合企業タイコ・インターナショナルのCEOを務めていた時、取締役会のリーダー候補として、デュポンのCEOと会長を務めたことのあるジャック・クロールを検討していた。

 この時、ブリーンは、みずからがタイコ・インターナショナルのCEOとして担うべきだと考える役割を文章に記す一方で、クロールには、同社の筆頭社外取締役としての役割がどのようなものであるべきかを文章にまとめるよう求めた。そのうえで、2人が互いの記した内容を読み比べると、おおむね互いに補完し合えるという結論に達することができた。

 ブリーンがクロールに望んだのは、取締役会のメンバー探しに携わってもらうことだった。傑出した人材を見つけてほしいと考えていたのだ。当時、タイコ・インターナショナルは会社の存続が脅かされる危機に直面していて、ブリーンは取締役会のメンバーを総入れ替えしたいと考えていた。

 「11人の取締役を新たに任命する必要がありましたが、私にはその選考を行うだけの時間がありませんでした」と、ブリーンは述べたうえでこう語った。「そこで、ジャック(・クロール)に任せたいと考えたのです。ジャックはその点で私の負担を大幅に減らしてくれました」

 過去に2社の上場企業でCEOの職にあり、ほかの多くの企業で取締役を務めた経験を持つマギー・ウィルダーロッターは、取締役会とCEOの役割を明確化するために、「決定権のマトリックス」を用いている。それにより、取締役会とCEOが担わなくてはならない主要な役割をリストアップし、どれを取締役会が実行し、どれをCEOが実行するかを明らかにするのだ。

 「一つひとつの意思決定に関して、誰が担当するのかが明確になります」と、ウィルダーロッターは説明している。「誰が責任を持つのか。誰が相談を受けるのか。誰が連絡を受けるのか。こうしたことがはっきりするのです」

 取締役会のリーダー候補とCEOが互いの役割について合意した後は、その2人がつくったリストについて取締役会全体で話し合うべきだ。筆者らがさまざまな企業の取締役会のメンバーに話を聞いてきた経験から言うと、このプロセスを実践している企業はほとんどない。しかし、次回はこれを実践したいと言う取締役たちが多い。

4. 取締役会のリーダーに必要な能力に、メンバーは合意しているか

 取締役会のダイバーシティが高まるに伴い、取締役会のリーダーは、さまざまな取締役たちの多様な視点を把握して正しく読み解いたうえで、一貫性と包括性のある形でCEOに伝える能力が必要とされるようになっている。具体的には、感情的知性(EI)と説得する力が求められる。

 石油大手のテキサコとユナイテッド航空のCEO、そして石油大手フィリップス66と製薬大手アッヴィの筆頭社外取締役を務めたグレン・ティルトンは、このように述べている。「取締役会のリーダーが持つ権威のほとんどは、明文化しづらく、非常に微妙なものです。その本質は、説得する力です」

 取締役会が答えを出さなくてはならない重要な問いの一つは、取締役会のリーダーがCEO経験の持ち主であるべきかどうかという点だ。実は、現役のCEOやCEO経験者が企業の取締役に選ばれる数は、この5年間で3分の1近く減っている。

 CEOを務めた経験は、取締役会のリーダーの役割を果たすうえで大きな財産になると、筆者らは考えている。以下の例を読めば、納得していただけるだろう。

 あるグローバルな巨大メディア企業が大がかりな企業買収を検討した時のことだ。買収対象企業の創業者一族(議決権のある株式のかなりの割合を保有していた)の年長メンバーは、どれほど有利な買収金額を提示されても会社を売るつもりはないと言っていた。自分たちのレガシーを守りたいというのが理由だった。

 この巨大メディア企業の筆頭社外取締役は、CEO時代に自社の取締役たちとやり取りした経験が豊富にある人物だった。この筆頭社外取締役は、創業一族の若いメンバーに働きかけた。若い世代のほうが会社売却に積極的だろうと判断したためだ。具体的には、若いメンバーが取締役会の年長メンバーと話をして、有利な価格での会社売却を説得するよう促したのである。