企業文化

 既存の従業員エンゲージメントと生産性、定着率を最大化するためには、魅力的な企業文化が必要だ。近年、企業文化は仕事の満足度を決定する最重要項目になっており、企業文化を見れば、報酬の10倍以上の確率で従業員の定着率を予測できるといわれている。ここでは有意義な企業文化の構築に向けた革新的な手法をいくつか紹介しよう。

・会社のパーパス、戦略、価値観を、業務やパフォーマンス、フィードバックのプロセスに組み込み、自社のリーダーが企業文化浸透の熱心な伝導者になれるようトレーニングする。

・充実したオンボーディング・プログラムを用意する。そのプロセスに企業への所属意識を醸成するアフィリエーションとメンターシップを組み入れる。

・従業員が自発的に取り組むプロジェクトに、キャパシティの10~20%を回せるよう、機会を設ける。

・共通の目的を持ち、そのために活動するコミュニティを立ち上げて親睦を深める。

・改善の機会がリアルタイムに近いタイミングでわかるよう、従業員の気持ちを把握する。

・従業員のインプットとエンゲージメントのための明確な双方向コミュニケーションチャネルを開発する。

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 組織にとって最適な人材戦略とは、経済状況が不確実な時期にも、自社のニーズに合った取り組みのポートフォリオを見極め、そこに適切な投資を行うことだ。ビジネスの成功における人材の重要性は、業界を問わず多くの企業が認識しており、対象となる従業員のニーズに応じて革新的な取り組みに着手し始めている。

 たとえば、IBMは人材プールを拡大するために、米国内の求人の50%から学位取得の要件を取り除いた。ウォルマートは第一線で働く従業員に大学の学費を全額提供し、卒業後のキャリアパスを加速させている。また、高齢の家族をサポートするコンシェルジュサービスを導入した法律事務所もある。

 人材戦略の成功に向けて、本稿で挙げたリストのすべてを実施する必要はない。それでも、人材獲得競争を有利に進めるために、改善の余地がある分野を見極めることは必要だ。まず、自分の組織がすでに実施している対策を把握し、そのうえで、人材戦略のどこにギャップがあるのか、筆者らの提案がどう役立つのかを慎重に検討しよう。

 同じ会社のなかでも、さまざまな従業員層のニーズによって異なる人材戦略が必要となる点も留意すべきだ。新たなイノベーションを試し、適切なフィードバックシステムを導入することで、永続的な人材優位性をもたらす持続可能な戦略を開発することができる。

謝辞:ボストン コンサルティング グループのパートナー、コリーン・マクドナルドとコンサルタントのクリスティーナ・リの本稿への協力に謝意を伝えたい。


"40 Ideas to Shake Up Your Hiring Process," HBR.org, January 16, 2023.