
人材採用と定着を実現するための40の戦略
経済状況が厳しいとはいえ、企業にとって、適切な人材を引き付けて定着させることは相変わらずの難題だ。その傾向は、米労働統計局の最新の報告書からも読み取れる。2022年11月現在、求人数は引き続き1000万件を超えているのである。
このトレンドは、筆者らの行った調査でも確認されている。2021年8月に800人のシニアビジネスリーダーを対象に調査を実施したところ、戦略を実現するに当たって、人材の雇用と定着が最優先事項のトップ3に入ると答えた人の割合は95%以上に達した。
しかも、これは短期的なニーズだけに留まらない。回答者の3分の2以上が、今後12~18カ月と3~5年のいずれの期間においても、低賃金から高賃金までを含む、それぞれの労働者のポジションを埋めることが組織の競争力を左右すると答えたのだ。
だが、ビジネスリーダーたちがこの人材難に革新的な手法で対処しているとは言いがたい。高賃金労働者に関して、彼らが頼る基本戦略は主に2つだ。報酬の増加(はっきりとしたアプローチである)と、リモートおよびハイブリッドワークモデルの導入(新型コロナウイルス感染症の影響を考えれば、意外性はない)である。
低賃金労働者への対応はそれ以上に遅れている。筆者らの調査では、低賃金労働者を引き付け、定着させるために、医療給付や報酬の引き上げといった基本的な対策を取っていると答えた企業でさえ半数以下に留まった。
原因は主に、革新的な人材活用法をめぐる認識不足にある。筆者らの調査対象となったリーダーの多くは、そもそも他にどのような選択肢があるのかを知らなかった。その点は彼ら自身も認識しており、自分の組織が極めて成熟した人材戦略を有していると答えた人は20%以下だった。
では、どうすれば人材イノベーションを促進し、その効果を測定できるのだろうか。筆者らの調査結果によれば、人材の採用と定着に関する組織の能力を高めるためには、より広範な取り組みのポートフォリオを使用する必要がある。
そこで筆者らは40ほどの戦略を特定し、それを採用プロセスの強化、または企業が提供できるものの強化に関する7つのカテゴリーに分類した。ここで紹介する取り組みには、広く知られているが十分に活用されていないものもあれば、新しくて革新的なものもある。
採用プロセスの強化
採用キャンペーンと選考
多くの企業が従来型の採用戦略に頼って、長い要件リストを満たす候補者を探そうとしているが、すべての条件を満たす候補者を見つけるのは容易ではない。稀に条件に合う人がいても、その職務に適した人材ではないケースも少なくない。
より広範な採用・選考プロセスを導入することで、企業は自社に適した人材を効果的に探せるようになる。ここでは、革新的な手法をいくつか紹介しよう。
・「本当に」達成されるべきことは何かを見極め、一般的な学歴や経験の要件ではなく、その職務において最も重要なスキルやスペックに焦点を当てたジョブディスクリプション(職務記述書)に書き換える。
・その職務にとって最も重要なスキルの70~80%を満たす候補者を探し、残りのスキルを身に付けさせるための学習カリキュラムを開発する。
・新たな候補者層を引き寄せるために「マイクロインターンシップ」(短期間の有給プロジェクト)や実習生制度を整え、フルタイム雇用に踏み切る前に雇用主と候補者双方が相性を評価できるようにする。
・オープンハッカソンを開催して人材を評価し、一括での採用を促進する。
・候補者が企業にとって必要な複数のスキルを有している場合、複数のポストでの採用を同時並行で検討する。
・テクノロジーやAIを駆使した人材評価を活用して、技術面のスキルや対人スキルのスクリーニングを行う。
・より多様な候補者を引き付けるために、職務記述書に包括的でジェンダーニュートラルな表現を使う。