労働者の誘致

 これまでの進展とは別に、新たな企業や産業を誘致する計画では必ず生じる大きな疑問がタルサ・リモートにもある。すなわち、なぜ、リモートワーカーの誘致にかける資金を、タルサの地元住民に回さないのだろうか。(GKFFの名誉のために記しておくと、同財団はほかにもタルサでの貧困の削減、人種的公平性、雇用創出などに向けたプログラムも実施している)

 標準的な答えはこうだ。リモートで遂行できる知識労働の仕事は、賃金が高く、地元のコミュニティに経済的波及効果をもたらす傾向がある。少なくとも、その効果を相殺するほど住宅費が高騰しない限り、その傾向は続く。EIGのモデルはこの理論に基づいて、タルサ・リモートによる見返りは大きいと推定している。リモートワーカーの仕事は賃金が高く、その収入が消費されることで富がタルサ全体に浸透していくのだ。

 ブルッキングス研究所で都市開発と格差について研究しているアンドレ・ペリーは、知識労働者を誘致するという基本方針を支持するが、常に成果があるとは限らないと警告する。

「私の地元ウィルキンスバーグ(ピッツバーグ都市圏の一部)では、テック人材の誘致は(ピッツバーグ内の)ほかの市にも効果をもたらすものと、大いに期待されました」と、彼はインタビューで述べた。「しかし、そうはなりませんでした。そうなる『可能性』はあったとは思います」

 ペリーが2020年の著書Know Your Price(未訳)で述べているように、地域の経済開発計画を成功させるには、都市内の地域コミュニティ同士のつながりを築き、計画策定のプロセスに地元住民を参画させることが求められる。外部者を誘致するプログラムの場合は、特にこれが当てはまる。

 GKFFは、タルサ・リモート参加者が地元コミュニティで積極的に活動してつながりを築けるよう強く後押ししており、応募者を選考する際にはこの点を考慮に入れるという。参加者は平均的なタルサ市民よりも高給の職に就いているが、人種構成はタルサ市民とおおよそ同じだ。同プログラムはイベントやピクニックを企画し、地元市民向けの催しへの参加を移住者に奨励している。

 トームは現在、リーディング・パートナーズという個人指導プログラムのボランティアをしている。2020年にワシントンD.C.からタルサに移住し、非営利組織にリモートで勤務するルーク・スキットは、ボランティア活動を通じて地元コミュニティとつながっている。タルサのイクオリティ・センター(LGBTQ+の平等を推進する組織)での仕事を通じて、別のパートタイムの仕事もでき、地元コミュニティで出会いが増えた。「いまでは、自分がタルサの一員であると強く感じています」と彼は言う。

 タルサ・リモートは、地方創生のもう一つの主要施策である企業誘致のための減税と比較しても、引けを取らない。たしかに、軒並み高学歴・高賃金の知識労働者たちにお金を与えるプログラムではあるが、企業を引き付けるための減税というありふれた戦略よりも、低所得層の負担がより重くなる「逆進性」は抑えられるだろう。