リモートワーカーの誘致に賭けたオクラホマ州タルサは何を得たのか
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サマリー:小規模な都市がリモートワーカーを積極的に受け入れることで、地元の経済は持続的な活性化を実現できるのだろうか。本稿では、米国オクラホマ州タルサで実施されている「タルサ・リモート」という取り組みを通じて、... もっと見るその問いに対する、現状の答えを論じる。 閉じる

小規模都市によるリモートワーカーの受け入れ

 過去4年の間に、2000人以上が「タルサ・リモート」に参加してオクラホマ州タルサに移住した。同プログラムはジョージ・カイザー・ファミリー財団(GKFF)が後援し、リモートワーカーに1万ドルの移住資金を支給する。

 リモートワークの拠点になることを目指す都市の取り組みとして、最もよく知られてきたのがタルサ・リモートであり、同プログラムに関する最近の2つの調査によれば、現在のところは成功している。タルサに移り住んだリモートワーカーたちは、移住前よりも生活水準が上がり、移住先のコミュニティと積極的に関わり、ほとんどの人が定住を考えている。

 タルサ・リモートは、リモートワークが経済の発展にどう変化を及ぼしうるかに関するケーススタディであり、小規模都市に希望を与える取り組みだ。とはいえ、明らかになっていない疑問もある。リモートワーカーの流入は、市全体に恩恵をもたらしたのか。ほかの都市にやり方を模倣されても、タルサは引き続きリモートワーカーにとって魅力的な場所でいられるのか。そしておそらく最も重要な点として、移住を望むリモートワーカーは、そもそも今後どれほどいるのだろうか。

タルサ・リモートの仕組み

 タルサ都市圏は100万人の居住者を抱えるが、近年では、ほかの多くの中堅都市に比べると人口の伸びは鈍い。市の経済は石油・ガス、航空宇宙産業、製造業が中心だ。ハイテク産業はあまり盛んではなく、居住者に占める大卒者の割合は全米平均よりも低い。

 ただし、ほかの都市よりも生活費が安いという強みがある。タルサの住宅費はロサンゼルスやニューヨークの約5分の1だ。

 誘致活動を行えば、リモートワーカーは安い生活費に引き付けられるはずだ、というのがタルサ・リモートの理論である。リモートワーカーの誘致によって、新たな居住者と収入を取り込むことができ、地元に知識集約型産業の種を蒔くことにもつながるかもしれない。

 クレア・トームがタルサ・リモートへの応募を決めたのは、参加した友人から話を聞いた後である。「うらやましいと思い始めたのです」と彼女は言う。

 トームと彼女の夫はいくつかの個人的な悲劇を経験した後、自分たち家族には変化が必要だと決心した。簡単な申請書を記入し、ズームでタルサ地元住民の面接を受け、身元調査を経て承認された。夫と幼い子ども2人とともに現地を訪問し、スラックでほかのタルサ・リモート参加者たちと交流し、移住を決めた。ウィスコンシン州マディソンの家を売り、承認から6カ月後にタルサにやって来た。

 転入から3カ月後にトームは転職し、現在はUXとデザインのコンサルタントとしてミシガンの会社にリモートで勤務している。この仕事で給与が上がり、生活費が安いため収入がさらに増えた。7月に夫妻は家を購入した。

 トームの経験は珍しいものではない。リモートワークについて研究するハーバード・ビジネス・スクール教授のプリトラージ・チョードゥリーは、最近の研究で次のことを発見した。タルサ・リモート参加者の実質所得(生活費を考慮し調整した所得)は移住前よりも増えており、その大きな要因は安価な住宅費と思われる。そして、移住後に生産性は低下していないと参加者は報告している。

 チョードゥリーはタルサ・リモートを分析するために、同プログラムに参加して移住した労働者にアンケート調査を行い、彼らを2つの類似グループと比較した。プログラムに応募したが承認されなかった人たちと、応募して承認されたが、個人的な理由(家族の病気など)で移住を完了できなかった人たちだ。これらのグループは完全な比較対象にはならないものの、両者との差異によって、タルサ・リモートが参加者に及ぼした影響をある程度正確に推定できると彼は考えた。

 承認されたが移住に至らなかった候補者に比べると、タルサ・リモート参加者のほうが、現在の居住地に留まるつもりだと答える傾向が高かった。また、地元コミュニティに積極的に関与していると答える傾向も後者のほうが高かった。

 この差異の一部は、調査の限界を反映している可能性がある。タルサ・リモートに承認されたものの、移住できなかった人たちは、現居住地のコミュニティへの不参加が顕著かもしれず、適切な基準値にならない。

 それでも、この報告はタルサ・リモートにとって朗報だ。チョードゥリーは、参加者が地域との関わりを強めているのには一つ単純な理由があると考えている。通勤に費やす時間が減ったため「あらゆる面で使える時間が増えたからだと思われます」と、彼はインタビューで述べた。「彼らは浮いた時間の一部を、地元コミュニティでのボランティア活動に充てています。双方にメリットが生じています」

 次に、シンクタンクのエコノミック・イノベーション・グループ(EIG)による分析では、タルサ・リモートが市の経済に及ぼした影響について、経済開発の標準的モデルを用いて推定した。研究者らの推定によれば、タルサに移住した参加者2人につき、1人分の新たなフルタイム職が創出された。そして同プログラムに費やされた1ドルにつき、13ドルが経済活動の中で創出された。

「ほかの経済開発の手段に比べると、非常にコスト効率のよい施策です」と、調査を実施したEIGのアナリストのダニエル・ニューマンは述べる。