デジタル投資が期待外れに終わるのはなぜか
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サマリー:フォーチュン1000に名を連ねる企業は、データやアナリティクス、人工知能(AI)に対する投資を強化している。しかし、筆者が行った調査によると、これらの取り組みは期待通りの恩恵や価値をもたらしていないことがわ... もっと見るかった。こうした状況を改善するために、企業はどのように行動を変えればよいのか。本稿では、データ、アナリティクス、AIを活用して自社を大きく変革したい企業に役立つ提案を示す。 閉じる

デジタル関連の投資が
価値を生み出していない

 フォーチュン1000に名を連ねる企業は、データやアナリティクス、そして人工知能(AI)に対する投資について、考え直したほうがよさそうだ。と言っても、これらの重要なビジネス上の能力や差別化要因に投資する必要がないというのではない。いま厳しく見直すべきなのは、自社がそうした投資をどのように行っているか、そして、その投資が期待通りの恩恵を生み出し、業務部門に価値をもたらしているのかという点だ。

 フォーチュン1000にリストアップされている有力グローバル企業を対象にした最近の調査によると、これらの企業におけるデータ、アナリティクス、AI関連の取り組みは、停滞もしくは後退しているように見える。

 筆者が企業のデータ関連の投資について調査を開始したのは、2012年のことだった。その後、テーマを広げ、アナリティクス、AI、機械学習、最高データ責任者(CDO)の役割、データに関する倫理についても調査するようになった。最新の2023年版の調査に回答したのは、116の企業の最高データ責任者、最高データアナリティクス責任者(CDAO)、そのほかのデータ部門のリーダー、そして業務部門のリーダーたちだ。業種は、金融サービス、小売り、日用消費財、ヘルスケア、ライフサイエンスなどである。この調査によって見えてきたのは、極めて気掛かりな傾向だった。

 以下の調査結果と、それが持つ意味を考えてみてほしい。

・自社がデータを活用してビジネスイノベーションを推進していると考えている企業幹部は、59.5%に留まっている。これは、4年前の調査とまったく同じ数値だ。つまり、この割合はまったく増えていない。

・自社がデータとアナリティクスによって競争をしていると考えている企業幹部の割合は、40.8%にすぎない。この割合は、何と4年前の47.6%より低下している。

・自社がデータをビジネス上の資産として扱っていると考えている企業幹部は、39.5%どまり。この割合も、4年前の46.9%より減っている。

・自社がデータドリブンの組織を築けていると考えている企業幹部は23.9%。つまり4社に1社に満たない。この割合も、4年前の31%より減っている。

・そして、最も期待はずれだったのは、自社内にデータ重視の文化を築けていると考えている企業幹部がたったの20.6%(つまり、かろうじて5社に1社)にすぎなかったことだ。この割合は、2019年の調査では28.3%だった。4年前に比べて、4分の3以下に減っている[注]。これでは、進歩どころか、退歩といわざるをえない。

 これらの調査結果は、とても明るいニュースとはいえない。87.8%の企業幹部は、自社が2022年にデータ、アナリティクス、AI関連の投資を増やしたと述べており、83.9%は2023年にも投資を増加し続ける見込みだと答えている。そして、回答者の91.9%は、このような投資が事業部門にとって目覚ましい価値を生み出しつつあると言う。しかしその投資も、上述のような指標──組織変革の達成度を測るうえで重要な指標──に影響を与えるには、まだ十分ではないようだ。

 では、こうした状況を改善するために、企業はどのように行動を変えればよいのか。成功を収めている数少ない企業は、他の企業とどこが違うのか。今後、経済環境が厳しさを増すことが予想される中で、企業はデータ、アナリティクス、AI関連の投資をさらに賢明に行い、その投資が事業部門にとって有益な進歩を継続的にもたらせるようにすることが重要だ。

 筆者はこの40年余り、ビジネスの世界でデータ、アナリティクス、AI関連の取り組みの普及と、企業による採用のプロセスを間近で見てきた。本稿では、その経験をもとに、データ、アナリティクス、AIを活用して自社を大きく変革し、自社の長期的なポジショニングを修正したい企業すべてにとって役立つ提案をいくつか示したい。