では、このことは企業にとってどのような意味を持つのだろうか。
企業の社会的責任の観点から言えば、もし仕事が従業員の子どもに影響を与えるならば、企業には当然、その影響をできるだけポジティブなものにする責任がある。また、ビジネスの観点からも、従業員の家族に対して、仕事がもたらす影響に注意を払うことは、企業にとって経済的メリットが大きい。従業員がパートナーや子どもとの関係に悩むと、そのストレスの影響は、生産性の低下、病欠や休暇の増加、従業員の満足度やモチベーションの低下など、必然的に職場に波及するからである。
幸いなことに、筆者らの研究で明らかになったように、
たとえば、調査に参加した美容師は、仕事中に「赤ちゃんの具合が悪いのですぐ迎えに来てください」との電話を受けた。その日はあと3人予約が入っていたが、マネジャーに「もちろん、行ってください。家族第一です。こちらは何とかします」とあっさりと言われたという。たったそれだけの人間味ある柔軟な対応が、大きな違いを生む。コストを大してかけずに、親が危機に直面した状況でも、子どものケアを可能にしたのである。
企業はまた、便宜を図ったり、柔軟な働き方を可能にしたりするだけでなく、仕事そのものがポジティブな体験になるように努力すべきだろう。
インタビューに参加したリンダは、キャンドル製造工場で出荷梱包の仕事をしていた。彼女は、顧客に送る荷物に、自主的に添え状とキャンドルの香りサンプルを入れ始め、そのことに上司が気づいた。上司はそれを指示も許可もしていなかった。ところが顧客からは好評で、注文の際にリンダを指名するようになっていた。上司は、その状況を放置したり、ましてや標準の出荷手順に従わなかったとリンダを罰したりするどころか、その独特の顧客サービスのアプローチを同僚に指導するよう求め、革新的だとして表彰し、リンダを昇進させたのである。リンダは、自分が尊重され、サポートされていると感じ、疲れるどころか「仕事が楽しくなった」と語った。その結果、疲労困憊ではなく、明るく前向きな気持ちで帰宅し、幼い息子の育児にも十分なエネルギーを注げるようになった。