企業は、従業員の心身の健康促進対策として、フレックスタイムや有給休暇の増加など、ハイレベルな規程の変更に焦点を当てがちである。このような制度面での取り組みが重要なことは間違いない。しかし、筆者らの調査によると、それと同じくらい不可欠なことは、従業員が日頃から尊重され、サポートされていると感じられることである。

 つまり、子育て中の従業員を支援するように責任者を指導し、権限を与えること、従業員にさらに自律性を与える方法を工夫すること、そしてマネジャー、従業員ともにコミュニケーション能力の向上を支援することである。

 たとえば、筆者の研究では、上司が従業員のプライベートと無縁なあまり、男性従業員が親になったことに気づかなかったケースが散見された。健全な組織には、従業員が自分の体験や考えを共有するための時間とスペースが用意されている。その手段は、匿名アンケートやランチタイム・フォーカスグループ、あるいは非公式な面談などさまざまだ。結局、従業員が直面している仕事と家庭の問題に対して、最良の解決策を持っているのは、その本人である場合が多い。語るきっかけを与えることが重要なのである。

 企業が真に健全で持続可能な職場をつくるためには、投資利益率(ROI)の定義を、経営者や従業員だけでなく、従業員の子ども、家族、近隣、そしてコミュニティ全体へのリターンを含むように拡大すべきである。企業が現在の従業員をどのように扱うかによって、次の世代がどのように育つかが決まる。未来への投資は、私たち全員にかかっている。それはつまり、働く親、そしてその子どもたちの健やかなる幸せを大切にする職場をつくるということである。


"How a Parent's Experience at Work Impacts Their Kids," HBR.org, January 31, 2023.